デジタル大辞泉 「口蹄疫」の意味・読み・例文・類語
こうてい‐えき【口×蹄疫】
[補説]成獣での致死率は低いが、感染率・発病率は高く、家畜の場合、運動障害・栄養失調により生産性が低下する。感染が拡大すると甚大な経済的損失を招くおそれがあるため、患畜は速やかに殺処分される。また、発生場所から一定範囲内の家畜の搬出は厳しく制限され、疑似患畜を含めて全頭殺処分し、埋却される。ウイルスが付着した飼料・人・車両も感染経路となるため、消毒や交通制限が行われる。
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ウシ,ブタ,ヒツジ,ヤギなどのほか,シカ,ラクダなど多種類の偶蹄類をおかすウイルス性伝染病。まれにはヒトにも感染するが発病することはない。ヒトから動物へ病原を伝達することはある。
原因ウイルスはピコルナウイルスのライノウイルス属に属する。伝染性が強く,抗原的に七つの免疫タイプが区分されており,一度侵入すると防除は困難である。この病気は全世界に分布し,現在清浄とみなされている大陸は北アメリカとオセアニアのみである。日本においては1900-02年の発生を除いては本病と思われる発生はない。輸入牛の発生例も幾度か記録されているが,いずれも動物検疫所内に限られており,国内へのまんえんは阻止されている。伝播(でんぱ)様式は接触および空気伝播で,ウイルスは病変部に大量に存在し,水疱(すいほう)の破裂に伴って床などを汚染する。また唾液(だえき)や呼気にまじって飛沫となって広がる。潜伏期中のウシの乳汁,精液中にもウイルスは存在する。本病におかされると,口と蹄部の粘膜と皮膚に水疱が形成される。伝染性が強く,きわめて急速に広がり,感染率,発病率が高い。死亡率は高くないが,発育障害,乳房炎,流産,不妊などによる生産性の低下が著しい。ウシでは潜伏期が自然感染では5~8日で,突然体温が40℃前後に上昇し,2~3日持続した後平熱に復する。発熱するとよだれが多量に流れ,口の周縁がよだれの泡沫で覆われる。この時期には舌の上面や側面,唇の内面,歯根部などの粘膜が充血して,ところどころに斑点や水疱がみられる。この水疱はしだいに大きくなり,隣接のものは互いに癒合してさらに大きな水疱となる。水疱は1~2日で破れて水疱液が流出して,血がにじんで赤紅色の爛斑(らんぱん)となる。発病牛は歩行を好まず,足の蹄部は温度が高く,皮膚には水疱病変が認められる。このほか鼻腔,乳頭,腟(ちつ)などにも出現する。通常発病後1~3週間で治癒する。本病の病原体の侵入を防止するため,口蹄疫発生地域からの感受性動物やそれらの動物に由来する生産物の輸入を禁止もしくは制限する。また輸入する動物や畜産物は厳重な検疫を行う。
執筆者:本好 茂一
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哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目に属する動物にのみ伝染するウイルス性の伝染病。一度発生すると伝染力が強く、家畜伝染病に指定されている。ウシ、スイギュウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、トナカイなどの、口や蹄部(ひづめ)の皮膚、粘膜に水疱(すいほう)を形成し、急速に広がる。感染率や発病率は高い。致死率は一般には低いが、幼畜では高い場合が多い。
伝播(でんぱ)は接触および空気により、ウイルスは病変部に濃厚に存在し、形成された水疱が破れると床や畜舎を汚染し、唾液(だえき)や呼気から飛散し、牛乳中や精液などにもウイルスが混在している。アジア、アフリカ、南アメリカにはいずれも常在しており、ウイルスが存在している国からのウイルス侵入の阻止が重要である。2000年(平成12)、92年ぶりに日本での発生がみられた。ただし、鼻腔内の病変のみで、ひづめの局所に異常はなく、抗体によって感染が確認された。口蹄疫と診断された場合には、特定家畜伝染病防疫指針に基づき、初発農場から半径20キロメートルの範囲内で生体の搬出を制限、交通遮断、疑似患畜(発生のおそれのある家畜)を含め全頭殺処分、埋却および消毒処置を行い、蔓延(まんえん)を防止する。日本は国際獣疫事務局(OIE)により、ワクチン接種をしない「口蹄疫清浄国」として認定されている。口蹄疫の常在国での予防には、数種の型を混合した多価ワクチンの接種が必要で、年2回の注射が行われる。
[本好茂一]
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(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2008年)
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