日本大百科全書(ニッポニカ) 「吊橋」の意味・わかりやすい解説
吊橋
つりばし
suspension bridge
適当にたるみをもたせて張り渡したケーブルを主体とする橋。その起源は紀元前といわれ、祖形は徳島県祖谷(いや)の蔓橋(かずらばし)のようなものであろう。古代の中国やイギリスにも原始的な吊橋があったと伝えられている。近代的な吊橋の原型はフィンレーJames Finley(1762―1828)によって導入された。彼は橋の剛性をもたせるためにトラス構造を用いた。近代の吊橋では、床の部分をプレートガーダーまたはトラスを組み合わせて剛性を高める構造が用いられている。このような桁(けた)を補剛桁(トラス)という。
一般に吊橋の主要な構成要素は、主体を構成するケーブル、中間においてケーブルを空中高く支持するための塔、ケーブルに作用する引張り力を大地に導き定着するアンカー、ケーブルから橋床を吊り下げる吊り材(ハンガー)、橋床部に作用する荷重を分散させ、変形しやすいケーブルを補剛する補剛桁または補剛トラスなどである。地形によっては塔なしですませることもあり、またアンカーを補剛桁に取り付けた自定式のものもある。古くはケーブルのかわりにピンで連結した鋼板やチェーンを用いたものもある。東京・隅田(すみだ)川の清洲橋(きよすばし)(1928、中央支間91.44メートル)は鋼板を連結した3径間連続プレートガーダー補剛桁の自定式の美しい吊橋である。
吊橋は、補剛桁(トラス)の形式により単径間吊橋、3径間吊橋となり、また支点構造により、支点がヒンジ構造の2ヒンジ吊橋および連続吊橋とに分かれる。中小支間では単径間2ヒンジ吊橋、長大支間では3径間2ヒンジ吊橋が一般的である。ただし、ヒンジ部では補剛桁に折れ曲がりが生じるので、とくに鉄道橋では連続形式の補剛桁が採用されている。
ケーブルには、たわみ性のある引張りに強いスパイラルロープかストランドロープを用いる。大支間の吊橋では丸線ワイヤを撚(よ)らずに単に平行に並べて束ねた平行線ストランドが用いられる。この工法はレーブリングJohann August Röbling(1806―1869)の考案である。吊橋は他の構造形式に比べて比較的剛性が低いので振動が問題となる。とくに風に伴う自励振動現象は振幅が増大する破壊的振動として知られる。1940年アメリカ合衆国ワシントン州のタコマ橋(中央支間853.4メートル)は秒速19メートルの風によってねじれ、フラッター現象を生じて落橋した。その後の吊橋にはこれを教訓として種々の対振動対策がとられている。最近では高張力鋼のケーブル材の開発と相まって、長大橋には吊橋がもっとも経済的な形式となった。
世界の代表的な吊橋には、サンフランシスコのゴールデン・ゲート橋(1937、中央支間1280メートル)、ニューヨークのベラザーノ・ナローズ橋(1964、1298メートル)、イギリスのハンバー橋(1981、1410メートル)などがある。日本の吊橋では、関門橋(1973、712メートル)、大鳴門(おおなると)橋(中央支間876メートル)、南備讃(みなみびさん)瀬戸大橋(1988、中央支間1100メートル)、北備讃瀬戸大橋(1988、中央支間990メートル)などが代表的なものである。
[小林昭一]