品質乖離(読み)ひんしつかいり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「品質乖離」の意味・わかりやすい解説

品質乖離
ひんしつかいり

商品の品質本来の理想的な適正資質から逸脱歪曲(わいきょく)されて欠陥性を維持したまま流通すること。消費者に認識させないように粉飾、偽装されていることが多い。

 商品は生産過程で価値(価格)と使用価値(品質)が付与されるが、このうち使用価値とは消費者にとっての社会的使用価値である。商品は消費者のニーズに沿ったものとはいえ、あくまで見込み生産であり、市場の社会的、経済的諸条件の変化(たとえば流行)や消費者の意識の変化によって、かならずしも使用価値が適切なものとはいえない場合も生ずる。したがって、市場に出荷された商品は、不特定多数の消費者によって、流通することの適否と、商品間の品質の優劣差が評価されることとなる。この評価の結果、適と判定されたもののみが、有用性や効用を組み込んだ生産物としての商品がもっている使用価値から消費者の消費目的にかなうものとしての具体的な品質に転化し把握されることになる。

 資本主義が未成熟な理想的市場(完全市場)では、商品の価格、品質は激しい競争の結果きわめて公正、妥当な形で成立し、このときの品質は、使用目的に応じた実質的な有用性である第一次品質のみで形成される。しかし資本主義の発展によって競争が鈍化し、市場が不完全化した寡占市場や独占市場になるとともに、品質も自然的属性に基づいた第一次品質のみから、社会的性質に基づいた第二次品質の導入が図られるようになる。第二次世界大戦後の技術革新に基づく技術の高度化は、これまで繰り返された購買経験によって培養された消費者の商品知識では、もはや品質を判定できないまでに高機能・高級化した商品の出現をもたらした。消費者の品質に対する判定能力の欠如やメーカーによる流通の系列化は、チェック機能を果たせずに、しばしば欠陥品質の成立を黙認する結果を生む。当初は偶然に成立した品質乖離商品は、消費者が欠陥性を判定しえないことがわかると、生産者は積極的な品質乖離政策を採用するに至る。

 企業の品質乖離政策の例としては、耐久性商品の場合、大量生産・大量販売を実現するために意識的に商品の第一次品質(機能や性能)を劣化させ、これを偽装するために第二次品質(商標、商品名、デザイン、包装色彩)などで紛飾し、過大な広告で消費者の心理を刺激して購買意欲をおこさせ、さらにモデルチェンジを繰り返すことで短命化・陳腐化を図ることなどがあげられる。また食料品などの生活必需品については、発色剤、着色料、保存料、酸化防止剤など食品添加物を広範に使用することにより劣化を誤認させるなど、消費生活を脅かす公害現象を発生させ、品質のあるべき姿からの逸脱が指摘されてきた。

 しかし1960年代~1970年代、消費者運動が活発化するなかで、たらこの赤い色が着色によるものであること、小ぶりで色も濃く、場合によっては枝との擦れ傷もある無袋(むたい)リンゴのほうがおいしいこと、日本の自動車のフルモデルチェンジのインターバル(間隔)が欧米よりも短いことなどが指摘され、これらの指摘や消費者の理解は企業の品質乖離政策を抑制する方向で機能した。また消費者保護行政のなかで、商品のテスト情報が、国民生活センターや日本消費者協会、暮しの手帖(てちょう)社、各自治体の消費生活センターにより公開されるようになり、食品添加物や遺伝子組換え原料、原産地などの表示も制度化された。豊かになりモノが充足した日本の消費者に対し、市場には商品があふれ、企業間競争が激化した。情報化社会となり、だれでも情報発信が可能となったが、一方で批判の対象とされることは企業経営のダメージにつながる。また個々の消費者の嗜好(しこう)の相違や、同じ消費者でも、使用目的に応じて購入する商品は高品質高価格のものから低品質低価格のものまで変化することから、それらに対応して企業はマーケットを細かくセグメント(分割)し(市場細分化market segmentationという)、それぞれの市場向けに、質の異なるものを供給している。したがって大企業の商品の場合、意図的に行う品質乖離はむずかしくなっているが、それでも、食品はもとより、各種消費財において商品に示されている使い方を守っていても、消費者被害が生じている実態がある。この背景には、経済のグローバル化による海外の安価な商品の激増が指摘されており、商品販売において高度の注意義務が必要とされる流通によるチェック機能が求められる。

[青木弘明・大竹英雄]

『橋本仁蔵他著『品質基礎理論』(1966・税務経理協会)』『河野五郎著『使用価値と商品学』(1984・大月書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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