清末・民国期の中国最大の出版社。1897年(光緒23)夏瑞方ら4人によって上海に設立。編集部を重視して小学,中学の教科書出版によって基礎を固め,《東方雑誌》(1904創刊)《小説月報》等の雑誌を発刊,また《辞源》《中国人名大辞典》などの工具書,実用書から文学に及ぶ広範囲の出版で各層の需要を満たし,他に先がけて新しい印刷技術を輸入するなどして出版界の筆頭にのしあがり,一時は1日1冊をモットーに中国出版物の半分を占めるほどの勢力を誇った。民国期のこの社の代表的人物は張元済と王雲五である。張元済は早くから編訳所所長として編集に腕を振るい,おもに古典籍の整理復刻を行った。《続古逸叢書》(1919),《四部叢刊》(1920-35),《百衲本二十四史》(1930),《四庫全書珍本》(1933),《叢書集成》(1935)などの大型出版はみな彼が手がけた。
また1921年編訳所所長に就任した王雲五は西洋文化に詳しく,おりからの新文化運動の波にのり業績を伸ばし,28年には〈四角号碼〉という画期的な漢字検索法を考案して辞書類に大改革を加え《王雲五大辞典》を出版,また洋の東西の名著を集めた《万有文庫》(1929)を編集出版した。これらの出版のための収書も積極的に行い,初めは涵芬楼(かんふんろう)に集め,のちには東方図書館として公開し,東洋一の蔵書量であったが,社址の上海閘北が1932年いわゆる上海事変の主戦場となり,日本軍の砲火のためにすべて灰燼(かいじん)に帰した。民国期を通じての活動は中国出版界に大きな比重を占めたが,その出版物は概して保守的な傾向が強かった。日本敗戦後王雲五は蔣介石とともに台湾にわたり〈台湾商務印書館〉として継続し,大陸に残った方も同名のまま継続,中華人民共和国成立後はおもに海外社会科学書および工具書の出版を行い,国家出版局直属出版社の一つである。
執筆者:中島 長文
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