日本大百科全書(ニッポニカ) 「国民生活安定緊急措置法」の意味・わかりやすい解説
国民生活安定緊急措置法
こくみんせいかつあんていきんきゅうそちほう
国民の暮らしに欠かせない生活必需品の異常な不足や高騰に対処するため、緊急措置を定めた法律。昭和48年法律第121号。第一次オイル・ショックによる物価高騰やトイレットペーパー不足騒動などを受け、1973年(昭和48)に制定された。高騰や品薄のおそれがある生活必需品を指定し、緊急的な需給・価格調整策で、国民生活の安定と国民経済の円滑な運営を目的とする。特定の生活必需品について、政令でその生産、保管、輸入、売渡し、輸送を指定できる。特定品目の生産・輸入・販売事業者に売渡しを指示できるほか、転売規制、使用制限、配給、割当てなど段階的に強い措置をとれるよう定めている。価格が著しく高騰する場合には、政令で当該物資を指定して標準価格を定め、価格統制を図る。標準価格を超える価格で販売した者には、事業者名を公表するほか、行政処分として課徴金(超過額分)を課す。違反者への罰則規定もある。第一次オイル・ショック時の1974年には、「灯油」「液化石油ガス(LPG)」「トイレットペーパー」「ちり紙」の4品目について標準価格を定め、価格統制した。
新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)が流行した2020年(令和2)3月には、国民生活安定緊急措置法に基づき、「一般家庭用マスク」について製造販売・輸入事業者に初めて売渡し指示がなされた。国は事業者から買い取った一般家庭用マスクを北海道を皮切りに、全国に配布した。また国民生活安定緊急措置法に基づき、高値転売(譲渡)を禁止する生活必需品として家庭・医療・産業用などの「衛生マスク」と「消毒用アルコール製品(除菌シートやエタノール入りハンドソープを含む)」を指定。同法政令を改正し、高値転売した違反者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金という罰則を定めた。その後、マスクを違法転売して逮捕されるなどの摘発事例が相次いだ。
緊急時に生活必需品の買占め、便乗値上げ、高値転売などを防いで安定供給する法制度の必要性は湾岸戦争(1990年)、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)が起きるたびに指摘されてきた。国民生活安定緊急措置法は1970年代にできた法律で、生活必需品の備蓄の仕組みが盛り込まれていないうえ、インターネット売買なども想定しておらず、時代に即した新法が必要との指摘が消費者団体などから出ている。
[矢野 武 2020年10月16日]