国際評価・認定(読み)こくさいひょうか・にんてい(その他表記)international evaluation and accreditation

大学事典 「国際評価・認定」の解説

国際評価・認定
こくさいひょうか・にんてい
international evaluation and accreditation

高等教育機関の評価・認定は,従来政府による審査や第三者評価機関によるアクレディテーションを通して,各国独自の枠組みの中で推進されてきた。どの国でも,高等教育機関の直接的なステークホルダーである国内の学生・雇用主・納税者等を主たる対象として,教育・研究の質を挙証する仕組みが確立されてきた。学生や教員国境を越えた移動が活発化する中で,高等教育機関は国外機関とも教育・研究上の連携をとったり,国外の高校から学生を受け入れたり,国外の労働社会へと学生を送り出したりする役割も期待されるようになっている。とりわけ有力大学は,世界の高等教育市場のヒエラルキーの中に自らを位置づけ,少しでも威信を高めるプレッシャーにさらされるようになっている。

 しかしながら,高等教育の質を世界共通の基準に基づいて統一的に評価するシステムは,いまだ存在しない。高等教育機関の多国間・広域連携の枠組みである欧州高等教育圏では,欧州高等教育資格枠組み(3段階の学位システム)と欧州単位互換累積制度(European Credit Transfer and Accumulation System: ECTS)の共有を通した学位・単位の等価性・互換性の向上,学位水準基標(Dublin Descriptors)や学問分野別参照基準(Tuning Subject Areas Reference Points)の導入を通した学位・単位の質の透明性の向上が目指されてきた。また,各国の教育制度および学位・資格に関する情報提供を行う各国情報拠点ネットワーク(European Network of Information Centres: ENIC)や学位や学修期間の承認に関わる情報提供や助言を行う各国学術承認情報センター(National Academic Recognition Information Centres: NARIC)が設置され,情報公開も促進されてきた。しかしながら,いずれも高等教育機関を直接,統一的な基準で評価・認定することを目的としているのではない。

 そうした中で,各国で推進されてきたアクレディテーションの国際的な共通性を高めることで,国家間で高等教育の質の同等性相互承認する仕組みが,専門職を養成する学問分野を中心に構築されてきている。たとえば工学分野では,技術者教育の国際的同等性を相互承認するワシントン協定がアングロ・サクソン系6ヵ国間で1986年に締結され,日本技術者教育認定機構(JABEE)も2005年より加盟している。医学分野でも,世界医学教育連盟(WFME)がグローバル・スタンダードを提示し,日本医学教育学会もそれに準拠した医学教育分野別評価基準を策定している。これらの枠組みに基づいて,当該国の教育プログラムが国際通用性を認定されることのメリットとは,他国で認定されたプログラムと実質的に同等とみなされる点,そのことによって卒業生が他国でも専門職として活躍しやすくなる点にある。

 各国アクレディテーション団体のネットワーク形成も進展している。たとえば,1991年に設立された高等教育質保証機関の国際的ネットワーク(International Network for Quality Assurance Agencies in Higher Education: INQAAHE)は,高等教育の質の評価・改善の理論と実践に関する「情報共有」を目的としている。日本の独立行政法人大学改革支援・学位授与機構,公益財団法人大学基準協会,公益財団法人日本高等教育評価機構,NPO法人実務能力認定機構を含む86ヵ国・地域の175機関が正会員として加盟しており,アジア・太平洋地域質保証ネットワーク(Asia-Pacific Quality Network: APQN)等の地域ネットワークも整備されている。また2012年には,米国高等教育アクレディテーション協議会(アメリカ)(CHEA)に国際質保証グループ(International Quality Group: CIQG)が設置され,CHEA正会員(約3000のアメリカ合衆国の大学・カレッジ)と各国101機関の加盟の下に,諸外国の高等教育機関と協働して質保証の課題に取り組むことが目指されている。

 このように,高等教育機関の国際評価・認定に対して慎重な姿勢がとられてきたのは,各国の多様な高等教育システムの中で,異なる学問分野の文脈において,教育・研究・社会貢献等の複合的機能を果たしながら,多様な学生を多様な進路先に送り出している高等教育機関の質を,世界共通の統一的な基準で評価することはきわめて困難だからである。

 その一方で,統一的な基準に基づいて大学の序列化を行う世界大学ランキングが大学や報道機関によって手がけられており,社会の関心を集めている。その背景には,高等教育の質に関するより分かりやすい指標への要求がある。こうした事態に対して,利用者自身が大学を評価する指標をオーダーメイドで設定することのできる多元的大学ランキング(U-Multirank)が,欧州委員会の支援を受けた大学コンソーシアムによって2014年より運営されている。また,学生がいかに学習成果を習得したかという観点から高等教育の質を問うための試行調査(高等教育における学習成果調査,OECD-AHELO)が経済協力開発機構によって手がけられるなど,高等教育機関の国際評価・認定に向けた試行錯誤が重ねられている。
著者: 深堀聰子

参考文献: 高等教育質保証機関の国際的ネットワーク:International Network for Quality Assurance Agencies in Higher Education(INQAAHE):http://www. inqaahe. org/

参考文献: 多元的大学ランキング(U-Multirank):http://www. umultirank. org/

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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