日本大百科全書(ニッポニカ) 「地域金融機関」の意味・わかりやすい解説
地域金融機関
ちいききんゆうきかん
特定地域を主要な営業基盤とする金融機関。地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、農業協同組合、漁業協同組合、労働金庫などをさす。中小・零細企業や個人商店をおもな取引先としており、特定の取引先と親密な関係を長期にわたって築くことで、他の金融機関が知りえない顧客情報を蓄積し、これを武器に金融サービスを提供するリレーションシップバンキングというビジネスモデルをもっている。ただ地方銀行最大手の横浜銀行でも預金量は16兆円台と、メガバンクの10分の1程度の規模で、預貯金・貸出金量、従業員数、営業拠点数が小規模な金融機関が多い。1990年代のバブル経済崩壊後、不良債権処理、デフレーション進行、リーマン・ショック、東日本大震災などで収益力が低下した地域金融機関が増え、一方で一定の地域に金融機関が過剰に存立するオーバーバンキングの解消が大きな課題となっている。政府は預金保険法(昭和46年法律第34号)、金融早期健全化法(平成10年法律第143号)、金融機能強化法(平成16年法律第128号)などで公的資金投入による再編と体質強化をめざしてきたが、1990年(平成2)からの30年間で大手銀行が5分の1以下のほぼ4グループに集約されたのに対し、地方銀行、第二地方銀行は2割減の100行、信用金庫が半減の約250機関、信用組合も6割強減の約140機関への集約にとどまっている。地域金融機関のトップは地域の名士で昔ながらの商慣行やテリトリー意識から脱却できないケースが多く、統合・合併交渉は難航する場合が多い。最近では地方の人口減少、超低金利の定着、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の流行などで地域金融機関の収益環境は一段と厳しくなっており、政府は2020年(令和2)、地方銀行の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法(「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」令和2年法律第32号)を施行し、システム統合費の時限的補助(上限30億円、期限は2026年3月末までの5年間)や、日銀当座預金への金利の0.1%上乗せなどを打ち出し、統合・合併を支援している。
[矢野 武 2021年8月20日]