イタリアのパラッツォpalazzoやフランスのシャトーchâteauによって代表される、ヨーロッパの建造物。この種の建物はもともと軍事上の防御施設としてつくられ、とくに10世紀以降中世末期まで各地に発達した。しかし、集約的な国家権力が衰微するにつれ、各地の領主層は公権の下にあった防御施設を個人的利害のために行使するようになる。とくに15世紀以降は、武器の発達や火薬の発明などにより戦争の性格も変化し、そのため城砦(じょうさい)としての軍事的意義は薄れ、居住性を重視するパラッツォやシャトーに移行した。
イギリスのパレスpalaceと語源を同じくするパラッツォは、宮殿だけではなく一般の邸宅から官庁舎まで含むが、中庭を囲む回字形のプランをもち、中庭の四囲に設けられた柱廊を経て各室に入る。正面は街路に面し、多くは3階で、壁体は表面の粗い石材で組むルスティカ様式で構成され、上端にはこの壁体の外観と調和するように重厚なコーニス(軒蛇腹)を配置する。フィレンツェのパラッツォ・ストロッツィやパラッツォ・ピッティが代表的事例である。
フランスのシャトーは、パラッツォに影響されて新しい様式に踏み出していったのは確かである。しかし王や貴族たちの関心は、屋内外とも表面的要素を部分的に取り入れるにとどまり、円錐(えんすい)屋根や円塔のような自国の伝統的な要素はそのまま踏襲している。シャンボール、アゼ・ル・リドーなどのロアール川沿いの地方に、この種の代表的建築が散在する。
[濱谷勝也]
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…フランス語で城を意味する言葉であるが,中世の実戦向きの防御施設を備えた城砦château fortが15~16世紀に発展して居住性の高い宮殿的性格をもつ城館château de plaisanceになったものを一般にこう呼ぶ。フランスのロアール川流域には,城砦のタイプと城館のタイプがともに見られる。…
…
〔日本〕
〈城〉という言葉には,建物だけをさす用語法もあるが,建物の設けられた一定区画の土地とその防御施設も含めた総体をさす用語法の方が正しい。また,居住施設としての比重の高い館(たて)や環濠集落,あるいは城壁で囲まれた都市を含める場合もあるが,その場合は城郭や城館という語を用いた方がよい。【村田 修三】
【古代】
古代の城柵は7世紀中ごろの天智朝以前の神籠石(こうごいし)と,天智朝に唐や新羅に対する防備のため対馬の金田城,讃岐の屋島城をふくむ九州から大和にまで築いた城,8世紀の怡土(いと)城などの西国の防御的な山城(さんじよう∥やまじろ)と,8,9世紀に東北経営の拠点として築いた平城(ひらじろ)または平山城(ひらやまじろ)に分けることができる。…
※「城館」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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