基礎神学(読み)きそしんがく(英語表記)fundamental theology

改訂新版 世界大百科事典 「基礎神学」の意味・わかりやすい解説

基礎神学 (きそしんがく)
fundamental theology

カトリック神学の一分野。啓示真理を取り扱う信仰学問である教義学体系に対して基礎を与えようとする分野であり,プロテスタント神学では教義学序論(ドイツ語でプロレゴメナ)の用語が用いられるが,実際は,後者は教義学の内容の総論的性格が強く,基礎神学の場合のように,学問の理論的な基礎づけを行うものとは趣を異にする。かつては護教論apologeticaと名づけられたこともあったが,この場合は,その理論づけがキリスト教に反対する人生観,世界観に対して,信仰の学問である神学が理論的に可能であるというばかりでなく,キリスト教の特質を明らかにし,その真理性を弁明する面が強調されたことによる。この点ではすでに古代世界におけるエイレナイオステルトゥリアヌスオリゲネスアウグスティヌスなどの教父にその根源をたどることができる。

 基礎神学が問うのは,啓示に関して,まず神が歴史のなかのできごとを通して人間に働きかけることができるかどうか,さらに人間はそのような働きかけを神の啓示として受けとめる能力があるかどうかであり,これらへの答えは神学にとっての前提,基礎である。啓示する神の権威が信仰の行為の動機であり,基礎であるが,啓示に対する信仰による答えを可能にするものは,啓示された真理の信憑性にもとづく。信仰は,〈知ることを求める信仰〉であって,〈不合理のゆえに信じる〉のではない。救いの前提であるから,啓示はその根底を確固としたものとし,とくに現代においては非キリスト者ばかりでなく,キリスト者自身の疑問,ためらいに答えることが必要である。基礎神学は啓示の信憑性を各方面から吟味し,啓示を受け入れることが理性にかなったことであり,またそれが必然的であることを示すように努める。啓示は単に信仰のみに訴えることによって根拠づけられえないというのがカトリック神学の伝統的主張である。したがって,この根拠づけは哲学形而上学,今日ではとりわけ哲学的人間学)により,聖書のなかにある歴史に対応する形で行われなくてはならない。キリスト教信仰によれば聖書は神の証言であり,イエスとその使徒たちの説教は神の啓示を中心にしていると考えられている。さらにそればかりでなく,みずからを啓示する神を信頼できるものとして信じる人間にも焦点をあてている。基礎神学は啓示のいちいちの具体的内容というよりは,啓示を中心にする神と人間の接触点,その可能性と存在論的な根底と構造をきわめようとするところにその本領がある。この観点から,最近K.ラーナーなどは,基礎神学を教義学にもっと内的に結びつけようとしている。
神学
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「基礎神学」の意味・わかりやすい解説

基礎神学
きそしんがく
theologia fundamentalis

啓示の事実性に対して,科学的客観的認識および証明を積極的に提示しようとするカトリック神学の一部門で,その基礎づけは哲学的歴史的方法によってなされる。信仰の学 scientia fideiとしての神学は信仰の真理が神より啓示され,かつそれが教会の不可謬的教導権にゆだねられていることを前提とするが,基礎神学はこの神学のいわば基礎的部門としてかかる神学上の前提の正しさを理性によって検証するのである。基礎神学の萌芽はすでに初代教会における護教論 (たとえばラクタンチウス,テオドレトス,アウグスチヌスら) のなかに見出され,トマス・アクィナスに代表される中世のスコラ学において相当の発展をみたが,それが固有の学的体系をもつにいたったのは近世に入ってからで,F.ベラルミヌス,ビッヘル,B.シュタットラーらの業績に待たねばならなかった。

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