化学辞典 第2版 「塩化リン」の解説
塩化リン
エンカリン
phosphorus chloride
【Ⅰ】三塩化リン(phosphorus trichloride):PCl3(137.33).リンに塩素を反応させると得られる.無色の発煙性液体.分子はPを頂点とする三方すい型構造で,P-Cl2.039 Å.∠Cl-P-Cl100.27°.融点-112 ℃,沸点76 ℃.密度1.57 g cm-3(21 ℃).ベンゼン,エーテル,CCl4などに可溶.水とははげしく反応する.
PCl3 + 3H2O = 3HCl + H2PHO3(ホスホン酸)
グリニャール試薬RMgXと反応してトリアルキルホスフィンPR3となる.NH3でリン三アミドP(NH2)3,ROH(Rはアルキル基)でP(OH)3,O2 で塩化ホスホリルPOCl3,Sで塩化チオホスホリルPSCl3となる.多くの金属を腐食する.POCl3,PCl5の製造原料.そのほか各種の染料,医薬品,農薬,殺虫剤などの製造原料となる.皮膚,眼,粘膜をおかす.有毒.[CAS 7719-12-2]【Ⅱ】五塩化リン(phosphorus pentachloride):PCl5(208.24).PCl3と塩素,またはリンと過剰の塩素との反応で合成される.淡黄色,発煙性,潮解性の結晶.密度2.12 g cm-3(30 ℃).気体では三方両すい型分子で,P-Cl2.017 Å(赤道面),2.124 Å(極方向).固体は正方晶系の結晶.PCl4+(正四面体,P-Cl1.97 Å)と,PCl6-(八面体,P-Cl2.04 Å(赤道面),2.08 Å(極方向))が塩化セシウム型構造に配列したイオン結晶.約100 ℃ で昇華がはじまる.さらに温度を上げるとPCl3と Cl2 とに分解する.CCl4,CS2に可溶.水では加水分解して塩酸とリン酸になる.アルコールROHと反応してRClを生じる.またNH3と反応してホスファゼンを生じる.金属ハロゲン化物とは,AlCl3・PCl5のような付加化合物をつくる.有機化合物の塩素化剤,とくに酸のOHをClにかえて酸塩化物とするのに利用される.また,アセチルセルロース製造で,触媒として用いられる.[CAS 10026-13-8]【Ⅲ】四塩化二リン(diphosphorus tetrachloride):P2Cl4(203.76).PCl3と H2 混合物を低圧で放電すると得られる.無色の液体.融点-28 ℃.約180 ℃ で分解する.密度1.70 g cm-3(0 ℃).不安定で,室温に放置してもPCl3とPに分解する.[CAS 13497-91-1]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報