塩化ニトロシル(読み)えんかニトロシル(その他表記)nitrosyl chloride

改訂新版 世界大百科事典 「塩化ニトロシル」の意味・わかりやすい解説

塩化ニトロシル (えんかニトロシル)
nitrosyl chloride

化学式NOCl。図に示すような折れ線型構造をなす。一酸化窒素NOと塩素Cl2を活性アルミナ触媒上で40~50℃で直接反応させ,ドライアイス-アセトン浴で冷却したトラップ中に導いて凝縮させる。

 2NO+Cl2─→2NOCl

塩化カリウムKClと二酸化窒素NO2を減圧下で反応させても得られる。

 KCl+2NO2─→KNO3+NOCl

王水中に存在し,貴金属の溶解を触媒する。常温で淡黄色の気体。沸点5.5℃,融点-64.5℃。液体は黄赤色。比重1.417(-12℃)。気体は塩素に似たにおいをもつ。水に溶けると分解してHNO3,HNO2,NO,HCl等を生ずる。反応性がきわめて強く,多くの有機化合物塩素化,酸化,ニトロ化ジアゾ化する。液体の塩化ニトロシルは激しく皮膚をおかす。NOClとテトラメチルアンモニウムクロリド(CH34NClとのあいだの塩素交換は-10℃で6分以下の短時間内に完全となることから,NOClがCl⁻とNO⁺の性質をもつことがわかる。NOClは,[NO⁺][SbCl6⁻],[NO⁺]2[SnCl62⁻],[NO⁺]2[PtCl62⁻]等のニトロシル塩をつくる。また多くの金属塩化物とは,MClx・NOCl型,MCl4・2NOCl型の付加化合物をつくる。二塩化ニトロシルNOCl2,三塩化ニトロシルNOCl3も知られている。
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化学辞典 第2版 「塩化ニトロシル」の解説

塩化ニトロシル
エンカニトロシル
nitrosyl chloride

一般にはNOClをさすが,ほかに二塩化ニトロシルNOCl2,三塩化ニトロシルNOCl3も存在する.なお,NO2Clは塩化ニトロイルという.【】塩化ニトロシル(nitrosyl chloride):NOCl(65.46).活性炭触媒の存在下-80 ℃ で一酸化炭素と塩素を反応させるか,HClとN2O5を反応させると得られる.室温では橙黄色の気体.折れ線形分子Cl-N-Oで,Cl-N1.975 Å,N-O1.134 Å.∠Cl-N-O113.3°.融点-61.5 ℃,沸点-5.5 ℃.気体を加熱すると,

2NOCl 2NO + Cl2

のように解離する.一方,液体では,

NOCl NO + Cl

のように電離している.液体には爆発性はないが,腐食性が大きく皮膚や粘膜をおかす.有機合成で,塩素化試薬,ニトロ化剤,酸化剤などに用いられる.有毒.[CAS 2696-92-6]【】二塩化ニトロシル(nitrosyl dichloride):NOCl2(100.91).濃塩酸と濃硝酸の反応で,NOClとともに生じる.【】三塩化ニトロシル(nitrosyl trichloride):NOCl3(136.36).NOClと Cl2混合物を-80 ℃ に冷却するときに生じる結晶で,付加化合物NOCl・Cl2と考えられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩化ニトロシル」の意味・わかりやすい解説

塩化ニトロシル
えんかニトロシル
nitrosyl chloride

化学式 NOCl 。非爆発性で,腐食性の強い黄赤色の気体。融点-61.5℃,沸点-5.5℃。水により分解し,塩化水素亜硝酸となる。王水橙色はこの化合物による。多くの有機物と反応し,塩素化,ニトロ化,酸化を行う。眼,皮膚,粘膜を強く刺激し,吸入すると肺浮腫を起す。このほかに,二塩化ニトロシル NOCl2 ,三塩化ニトロシル NOCl3 などがある。

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