ニトロ化(読み)にとろか(英語表記)nitration

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニトロ化」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化
にとろか
nitration

有機化合物炭素原子に結合している水素原子ニトロ基-NO2で置換すること。ニトロ置換ともよばれる。脂肪族の第一および第二ニトロアルカンは、ジメチルホルムアミド(DMF)中でそれぞれ第一および第二ヨウ化アルキルに亜硝酸銀または亜硝酸ナトリウムを作用させると得られる。第二ニトロアルカンを合成する反応では異性体の亜硝酸エステルを約40%副生するが、沸点の差およびエステルのほうが加水分解されやすいという性質の違いを利用して、容易に除去できる。陰イオン交換樹脂を亜硝酸で飽和し、これにヨウ化アルキルを作用させる方法により合成すれば、亜硝酸エステルの副生を避けることができる。第二ニトロアルカンは、α(アルファ)-ハロゲノカルボン酸を亜硝酸アルカリと加熱しても合成できる。


 第三ニトロアルカンは、対応する第三アミンを過マンガン酸カリウムにより酸化すると得られる。

 芳香族化合物の芳香環上のニトロ化には種々のニトロ化剤nitrating agentが用いられる()。

 ニトロ化剤はすべて、反応系内でニトロニウムイオンを発生するものと考えられている。


 ニトロ化剤の選択はニトロ化される化合物の性質と合成したい目的物がなにであるかに依存する。たとえば、トルエンをニトロ化する場合、混酸を用いて0℃でニトロ化するとオルトニトロ体とパラニトロ体とがほぼ等量にできるが、酢酸ニトロニウム(別名、硝酸アセチル)を用いると、同条件下でほとんどオルトニトロ体のみを生ずる。ニトロトルエンをさらに混酸と加温すれば、2,4-ジニトロトルエンを生じ、さらに高温にすれば2,4,6-トリニトロトルエン(別名TNT。火薬の成分)を与える。のように、芳香族ニトロ化反応は、ニトロニウムが芳香環上のπ(パイ)電子に付加し、ついで環の一つの炭素上へ移ってσ(シグマ)錯体を生じ、この炭素上の水素原子が抜けてニトロ化合物を生ずる反応機構で進行する。

[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニトロ化」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化
ニトロか
nitration

有機化合物にニトロ基 -NO2 を導入する反応の総称。代表的な求電子置換反応である。特に芳香族化合物のニトロ化は,染料中間体,医薬,農薬,爆薬などの合成における重要な単位反応の一つである。芳香族化合物のニトロ化は,混酸 (硝酸と硫酸の混合物) によって行われることが多い。

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