改訂新版 世界大百科事典 「塩化カルボニル」の意味・わかりやすい解説
塩化カルボニル (えんかカルボニル)
carbonyl chloride
化学式COCl2。ホスゲンphosgeneともいう。無色で,かびた乾草様の臭気がある猛毒の気体。1812年にイギリスのデービーJohn Davy(有名なHumphry Davyの弟)が初めて合成。このとき一酸化炭素と塩素ガスを太陽光によって反応させたことから,ギリシア語のphōs(光)とgenēs(つくられた)にちなみphosgeneと命名した。活性炭,木炭などを触媒として一酸化炭素と塩素ガス(150℃付近)あるいは塩化ニトロシルNOClと反応させると得られる。クロロホルムCHCl3や四塩化炭素CCl4を発煙硫酸で酸化しても生成する。高温では可逆的に分解する(COCl2⇄CO+Cl2)。窒息性,催涙性があり,吸入すると呼吸困難になり,数時間後に肺水腫を生じて死亡する。第1次世界大戦時には毒ガスとして使用された。p-ジメチルアミノベンズアルデヒドと無色のジフェニルアミンの同量を10%のアルコールまたは四塩化炭素溶液とし,これをろ紙に浸して乾燥した試験紙はホスゲンにより黄色または濃オレンジ色を示す。融点-128℃,沸点8℃。気体は空気の約3.5倍の密度がある。液体の密度は1.39g/cm3(室温)。水にわずかに溶け,徐々に加水分解して塩酸と二酸化炭素になる。ベンゼン,トルエン,酢酸などの有機溶媒に可溶。水酸化アルカリや多くの金属酸化物とよく反応する。アンモニアまたはアミン類と反応し,塩化カルバミル(イソシアン酸エステルの原料)を経て尿素またはその誘導体を生成する。
ポリウレタン,染料など有機合成の原料に用いられ,ガラス製造用砂の漂白,塩素化の原料にも用いられる。
執筆者:大瀧 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報