改訂新版 世界大百科事典 「塩徒」の意味・わかりやすい解説
塩徒 (えんと)
yán tú
中国,塩の密売者の集団。塩梟(えんきよう),塩賊などとも呼ばれる。唐代,8世紀の後半以後,塩の専売制が実施され,とくに宋代になって厳重な刑罰をともなって精密な制度ができあがると,民衆は概して高価で粗悪な塩を強制されることになる。とりわけ揚州を中心にした淮南(わいなん)塩の販塩区に定められた湖南,江西などではその弊害がいちじるしかった。そこで厳しい法網をくぐって塩の密売者たちが活動することになる。江西省の南部などは地理的に広東に近く,密売塩の需要も大きかった。政府の取締りと密売はいたちごっこの関係にあり,密売者たちは方言の相違や地理的条件を克服して政府に対抗する強力な秘密組織を作りあげた。塩徒には専売塩の運搬船の船員,正規の塩商が裏で密売をするものから,仗頭と呼ばれる首領に率いられ結会拝盟した数百人の官憲に対抗する集団までさまざまな形がある。唐末の黄巣以後,王朝末期の反体制運動の中核には塩徒が加わっているのが常である。
→塩法
執筆者:梅原 郁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報