精選版 日本国語大辞典 「専売」の意味・読み・例文・類語
せん‐ばい【専売】
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国家による特定財の独占的製造および販売をいう。専売は、その目的によって行政専売(公益専売)と財政専売とに分けることができる。行政専売は、社会政策、産業保護、治安の維持、公衆衛生などを目的に実施されるものであり、火薬、麻薬、アルコールなどの専売がこれにあたる。これに対して財政専売は、財政収入を獲得することを目的とするもので、塩、たばこ、茶、綿花などの専売がこれにあたる。この場合には、国民がその物品を購入するに際しては、国が定めた価格に従って対価を支払わざるをえないので、実質的には消費税を課されたのと同じになる。
専売の起源は、古代エジプトのパピルスの専売にまでさかのぼれるとされる。中国では、漢の武帝の紀元前119年に、当時民間で盛んに行われていた手工業の中心的地位を占める塩業と製鉄業を国家の権力的管理下に移し、その商業的収益を国家財政の財源とした。その後、唐時代の8世紀なかばには専売法が制定された。この専売法は、両税法とともに、唐朝の財政的基盤をなすもので、同法に基づく塩の専売収入は、やがて国家歳入の半分を占めるようになった。同じころには茶の専売も実施され、これらの専売制度は次の宋(そう)代にも受け継がれていった。たばこの専売は、イギリスによって植民地時代のアメリカで実施され、プロシア時代のドイツにおいても専売の対象とされていた。さらに19世紀初頭には、エジプトのムハンマド・アリーによって綿花の専売が実施されている。
近代的な専売は、1810年に始まるフランスのたばこの専売や、1834年からのオーストリアのたばこの専売などの少数の例外を除けば、19世紀末葉から20世紀初頭にかけて実施されるに至ったものである。この時期には、各国とも国家経費の膨張が著しく、それに対処するため税収の増大が図られ、嗜好(しこう)品をはじめとする各種商品に対する課税が、専売という形式で実施されたからである。
[林 正寿]
日本においても、江戸時代には幕府が鉄、銅、薬用ニンジン、生糸、茶、たばこなど多くの商品の専売を行い、また諸藩でも、紙、漆、蝋(ろう)など領内の特産物の専売を実施して財政収入を図っていた。
しかし、近代的専売制度が実施されるようになったのは明治30年代以降で、たばこ、塩、アルコールなどが対象とされてきた。
最初に専売の対象となったのは、たばこであった。日清(にっしん)戦争後の財政需要の増大に対処するため、1898年(明治31)に葉たばこの専売が実施されたのに始まり、1904年には製品の製造、販売にまで専売の範囲が拡大された。たばこの専売は、当初は大蔵省の直営事業として専売局の管理下に行われたが、第二次世界大戦後の1949年(昭和24)6月に日本専売公社が創設されてからは、同公社が担当してきた。しかし、1984年8月に、たばこの輸入自由化と日本専売公社の民営化を柱とする、たばこ事業法などいわゆる専売改革関連五法が成立したのに伴い、1985年3月末でたばこの専売制度は廃止され、同年4月から日本専売公社は日本たばこ産業株式会社として新発足した。
塩の専売は、1905年(明治38)に日露戦争の戦費調達を目的として始められたものである。しかし、塩の生活必需品としての性格上、その後価格維持に努めたため、しだいに行政専売へと移行した。塩もたばこと同じく、大蔵省専売局の管理下から第二次世界大戦後の1949年に日本専売公社に移管されたが、1985年4月の同公社の民営化に伴って、日本たばこ産業株式会社に専売業務を委託する形がとられた。さらに、規制緩和の要請にこたえるために塩事業法が1997年(平成9)4月1日から施行されたが、同法は塩専売法の廃止、すなわち塩専売制度の廃止を規定するとともに、それに伴う必要措置を講ずる目的で財務大臣は塩需給見通しを策定し、公表することが義務づけられている。また、塩製造業者、塩特定販売業者、塩卸売業者は財務大臣の登録を受けなければならない。財務大臣によって指定された塩事業センターには、生活用塩の供給、塩の備蓄、塩産業の効率化を促進するための塩の製造業者および販売業者への助言および各種援助の提供等の業務を課している。
アルコール専売は1937年(昭和12)に始まり、たばこや塩とともに大蔵省専売局の管理下にあったが、1942年に商工省の所管となり、1947年に「アルコール専売事業特別会計」が創設され、事業は1982年新エネルギー総合開発機構(1988年新エネルギー・産業技術総合開発機構に組織変更)に移管された。この事業は、当初は戦時体制下の燃料自給国策の一環として発足したが、戦後は、良質アルコールを低廉な価格で安定的に供給して産業の発展に寄与すること、アルコールが不正に飲料として使用されるのを防止して酒税の確保を図ること、などを主目的とするものになった。そして2001年(平成13)4月にアルコール事業法が施行されたのに伴い、アルコール専売法、アルコール専売事業特別会計法は廃止され、アルコールの製造、販売、使用は許可制となった。
このほか、産業保護を目的に樟脳(しょうのう)の専売が1903年(明治36)から1964年(昭和39)まで実施され、また戦時中の1943~1945年に燃料自給国策の一環として石油の専売が実施されている。なお、アヘンについては、法律上専売の語は用いられていないが、「あへん法」(昭和29年法律第71号)によって国の独占権が定められている。
専売は独占であるから、高い価格を設定することにより消費を抑制するという社会政策の目的を達成することもできるし、独占利益を得ることもできる。専売から得る国家による独占利益は日本専売公社とアルコール専売事業特別会計からの専売納付金として国の歳入の一部を構成していたが、たばこ、塩の専売制度の廃止とともに専売納付金の額も大幅に減少した。一般会計歳入合計額に占める専売納付金の比率は、戦後一番高かった1948年度の20.06%から、1960年度の7.50%、1970年度3.24%、1980年度1.84%、1990年度(平成2)0.02%と低下し、2001年にはゼロとなった。たばこについては、1985年(昭和60)専売公社の民営化に伴いたばこ消費税に、さらに1989年(平成1)にはたばこ税に改められた。
[林 正寿]
『日本専売公社専売史編集室編『たばこ専売史』全4巻(1963~64・日本専売公社)』▽『戒野真夫著『たばこ専売事業の展開構造』(1986・明文書房)』▽『藤本保太著『日本の専売政策』(1990・多賀出版)』
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…したがって商人の社会的地位は低かったが,社会にとって不可欠の業務を担う商人の活動まで否定できず,商人は実力をもって社会と経済に大きな影響力を行使しつづけてきた。その一例が専売商人である。 中国の商業,とくに大規模な商業は,政府の専売制度と密接な関係をもっている。…
…中国の宋代に発達した専売法。専売の方式には政府機関の手で消費者への販売を行う官売法と商人に販売をまかせる通商法とがあり,通商法では商人に政府発行の手形(塩鈔,茶引(ちやいん)など)を買わせ,手形と引き替えに生産地で専売品と専売許可証とを渡し,所定の地域内で販売させていた。…
…
【作物としてのタバコ】
[種類,形状]
ナス科タバコ属Nicotianaの植物で,通常一年草。タバコ属は現在65種が発見され,多くはニコチン,アナバシンなど数種類のアルカロイドを含んでいる。現在栽培されているのはそれらのうちニコチンを主アルカロイドとするタバコN.tabacum L.(英名tobacco)(イラスト)とマルバタバコN.rustica L.(英名Aztec tobacco)である。後者は旧ソ連など限られた地域にしか栽培されておらず,栽培タバコのほとんどは前者である。…
…1984年までは,旧たばこ専売法(1949年制定)によるたばこ専売制度のもとで日本専売公社がタバコの製造を独占し,その利益を専売納付金として国庫に納付していたが,84年に,たばこ専売制度が廃止され,民営化された。それに伴い,たばこ消費税法が制定され,日本たばこ産業株式会社に国税としてたばこ消費税が課されることになった。さらに,88年消費税法の制定とともに,たばこ消費税法が改正されて,たばこ税法となり,たばこ消費税もたばこ税と改称された。…
…業務内容は,タバコと塩の買入れ・製造・販売,その生産者・販売者の指導・助成,同専売品の輸出入等であった。タバコ小売定価の約56%が,専売納付金(国の一般会計の歳入に計上される)およびたばこ消費税(都道府県・市町村に納付される)となった。1982年度のタバコ売上高は2兆4704億円(販売総数量は3167億本),専売納付金は7651億円,たばこ消費税は7656億円。…
※「専売」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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