売上高極大化仮説(読み)うりあげだかきょくだいかかせつ(英語表記)sales maximization hypothesis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「売上高極大化仮説」の意味・わかりやすい解説

売上高極大化仮説
うりあげだかきょくだいかかせつ
sales maximization hypothesis

寡占企業は、通常考えられているように利潤の最大化を目的とするのではなく、売上高(販売収入)の最大化を行動目的とするという仮説。1959年にアメリカの経済学者ボーモルWilliam Jack Baumol(1922―2017)により提起された。企業の目的は何か、という議論でたびたびあげられる仮説である。ボーモルは、アメリカの法人会社の経営者とのインタビューで、経営者たちは利潤よりも売上高を大きくすることに関心をもっているという印象をもつに至った。経営と所有とが分離している巨大企業の経営者は、株主を満足させる一定利潤さえ確保すると、あとは企業の規模(売上高)の増大を目標とする傾向をもつのである。

 これは主として次のような理由による。すなわち、売上高の減少は、製品の人気の下落として受け止められ将来の需要の低下につながること、販売網の脱落、生産の縮小人員整理など困難な問題につながる危険性があること、これらは、その企業の営業状態の悪化を意味し、金融機関に対する信用力の低下を招くこと、また、経営者は自分の社会的地位給料が販売高の大きさに強く依存していることを知っていること、などである。なお、この仮説のもう一つ特色は、意思決定をする際に企業はライバル企業の報復を恐れることはない、と考える点である。その理由としては、経営者は品位安全性に強い欲求をもち他企業と争うことを好まない、近代大企業は高度に部門分割された複雑な組織であり意思決定に時間がかかりすぎる、などがあげられる。

[内島敏之]

『W・J・ボーモル著、伊達邦春・小野俊夫訳『企業行動と経済成長』(1962・ダイヤモンド社)』

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