「色葉字類抄」には「謀叛 ムホン 背朝也」とあるほかに「謀反 賊乱分 ムヘン」とあり、謀叛と謀反を区別するが、「伊呂波字類抄」には「謀叛 謀反同」とある。
天皇,朝廷,君主,主人など国家,為政者,権力者に対する反逆。律令制では名例律の最初に天皇,国家に対する反逆罪を掲げ,次の3項を規定する。(1)謀反(慣用で〈むへん〉と読む) 天皇に対する殺人予備罪で,謀は2人以上の共同謀議をさし,謀議しただけで斬刑。(2)謀大逆 御陵,皇居の損壊を謀る罪で絞刑,実行に移れば大逆として斬刑。(3)謀叛 亡命,投降を図り,また外国に通ずるなどの罪で絞刑,実行に移れば斬刑。ただし律令時代の実際としては,天皇個人の殺害を目的としたと確認できるものはなく,権臣の殺害を通じての政権掌握や,蝦夷,隼人の騒乱にかかわるものなど,内乱に通ずることが多く,史料上も逆,逆謀,反逆,叛逆など多様な表現が用いられている。もともと〈反〉は積極的な攻撃,〈叛〉は消極的な離脱を意味するが,日本語の〈そむく〉は背を向ける意味で叛に近い。平安後期以降は反と叛の区別は意識されず,君主,主人に〈そむく〉行為はおしなべて謀叛と称された。中世でも最大の犯罪とみなされたことは当然で,鎌倉幕府法ではいわゆる大犯(だいぼん)三箇条の筆頭として謀叛,殺害(夜討,強盗,山賊,海賊もこれに準ずる),大番催促と列挙される。大犯三箇条の犯罪の追捕権は守護にあるから,守護使不入の特権を有する本所領(荘園)にも,謀叛人追捕のためには守護は入部することができた。
謀叛に対する刑罰は前近代を通じてほぼ死刑であるが,平安期には保元の乱に至るまで,権力者間の闘争においては死刑は行われなかったともいわれる。中世武家社会での死刑はおおむね斬首(斬罪)であるが,斬の後梟首することもあり,戦国時代には磔刑などで謀叛人を処刑する例も多い。謀叛が時の政治権力掌握者に対する反逆であるという観点からすると,元弘の乱の後醍醐天皇の討幕行動に対して〈天皇御謀叛〉(〈瑠璃山年録〉残簡)という表現があることは,日本人の国家観念を考えるうえでの一問題であろう。
執筆者:羽下 徳彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…中国,隋・唐以後の律で,国家,社会の秩序を乱す罪としてとくに重く罰せられた〈謀反〉〈謀大逆〉〈謀叛〉〈悪逆〉〈不道〉〈大不敬〉〈不孝〉〈不睦〉〈不義〉〈内乱〉の総称。漢律にもすでに〈不道〉〈不敬〉といった名目があり,北斉律にいたって重罪十条という規定が設けられていた。…
…律の条文のうち,主として儒教的見地から道徳上の教えに違反する罪を集めて,それを謀反(むへん)(反をはかる),謀大逆(大逆をはかる),謀叛(むほん)(叛をはかる),悪逆,不道,大不敬,不孝,不義の8項目に分類し(表参照),それに特別な法的効果を付与した規定。したがって八虐に当たる罪に対する刑罰がすべて重いとは限らない。…
…謀反・大逆の罪は,恩赦にあっても全免されず,近流に処せられる。なお八虐中の謀叛(むほん)は,謀反が現政権に対する積極的な反乱を企てることをいうのに対し,敵国への投降や亡命等の消極的な抵抗を謀る罪をいうが,後に両者は混同された。謀反,謀大逆,謀叛の3者は,政治犯として裁判手続上,多くの特例が認められている。…
※「謀叛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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