大学事典 「大学博物館」の解説
大学博物館
だいがくはくぶつかん
university museum
museumの語源は紀元前3世紀末に遡る。アレクサンドロス大王亡きあと,その偉業を讃えるため,エジプトのアレクサンドリアに,プトレマイオス1世とその息子の2世が建設したムーセイオン(学問研究所)に由来する。しかし,今日の博物館の呼称として,museumが普及したのは17世紀である。
[役割・機能]
日本における博物館の役割は,一般的には博物館法(1952年制定)の定義に示されている。第2条で,専門分野の資料を収集し,保管(あるいは育成)し,展示すると定義され,さまざまな分野の博物館があることがわかる。加えて博物館の目的が一般公衆への教育に資する事業を提供する施設であることも謳われており,専門的職員である学芸員が,所蔵する資料に関し調査研究することが求められている。このことは,大学における他の一般職員と比べ,学芸員が職務上特殊な立場にあることを意味する。博物館の定義はおおむね大学博物館にもあてはまるが,国立大学の図書館が含まれないため,機関間の協力・連携などの観点から,今後の課題となっている。単科大学あるいは総合大学には,専門分野に関連する博物館を持つものがあり,武蔵野音楽大学楽器博物館,文化学園大学服飾博物館,多摩美術大学美術館,神戸商船大学海事資料館など多種にわたる。東海大学の海洋科学博物館(東海大学)の海洋実験水槽の展示は,いわゆる水族館にあたる。大学に付属する博物館は継続的な資料,標本等の収集において,予算獲得の面からも,一般の博物館に比べ有利である。
[歴史―西洋と日本]
大学付属の博物館では植物園が最も早く,16世紀中葉にはピサ大学(1543年),パドヴァ大学(1545年),ライデン大学(1587年)がすでに開設していた。しかし,公開を明確に謳った本格的な大学付属博物館の起源は,近代博物館の嚆矢との評価も高い,オックスフォード大学のアシュモレアン博物館(イギリス)(1682年)にあるといわれる。19世紀には,主要な大学の博物館をはじめ,国公私立の博物館が多数創設された。日本の大学博物館は,明治10年代の帝国大学理学部博物場が最初とされているが,現存する施設としては北海道大学にある旧札幌農学校の博物館が最も古いと考えられる。その後,設置母体に特徴的な研究や資料の蓄積と連動して創設されてきた。大学博物館は公開制を敷いてきたとはいえ,専門色の強い博物館が多く,歴史的に見ると一般の利用は限られていた。
[意義・課題]
大学博物館の意義は研究と教育に資することである。設置母体である大学の教育・研究と深くつながり,その所蔵資料等の調査・研究によって蓄積された研究資料や成果を教育に生かし,次代を担う研究者を養成するという役割を担っている。大学博物館の今後の課題のひとつは,現在大学で進んでいる研究の成果を,どのように継続的に博物館資源とするのかということにある。
博物館の組織は,大学によって異なる。運営に関しては,教員が兼務する形がかつては多く,明治大学,早稲田大学などのように,専任の学芸員をおく大学博物館もあったが事例は少なかった。現在,私立大学では兼務教員と学芸員の設置が多くなりつつある。国立大学ことに旧帝国大学系では,博物館専任の教員をおいて博物館運営を行うものが増えている。1996年には学術審議会報告「ユニバーシティミュージアムの設置について」が出され,全国的な大学博物館の整備が進んでいる。学芸員養成課程を設けている大学では,博物館は格好の養成の場ともなり,展示の例を見,あるいはその準備過程の疑似体験も可能である。実習の場として直接,学芸員の指導を受けることもできる。専門家養成の場として,その設置の意義は大きい。
博物館は,その目的の一部である一般公衆への公開の観点から,地縁性が課題のひとつとなる。大学博物館の場合は,研究課題にもよるが,概して狭い意味での地縁性はなく,専門分野を核に調査,研究を推進し,展示その他の事業を展開して,その存在意義を発揮することが可能である。しかし公開と地縁性の面から見ると従来,その専門分野の特殊性から,広い意味での公開につながらなかった。背景には広報活動の不足という側面もある。設置母体の地域貢献が期待される今日では,大学の研究・教育の成果を社会に発信する場としての重要度が増している。IT化が進む今日,実物,標本等の展示会のみならず,所蔵品の目録,解説,調査・研究の成果の発表も,紙媒体と同時にデジタル発信が望まれる。資料・情報の共有を踏まえた外部博物館との協力は,調査・研究の面からも有効であり,また社会に向けた広報活動においても博物館活動の認知度を上げる有効な手段のひとつとなり得る。昨今は,類縁機関である図書館,アーカイブズなど,MLA(Museum,Library,Archives)のネットワーク化が進められており,情報の共有と相互の発展ならびに社会貢献のために,今後ますます大学内外の協力・連携の強化が求められる。
著者: 阪田蓉子
参考文献: 矢島國雄「大学博物館とその役割」,小笠原喜康・並木美砂子・矢島國雄編『博物館教育論』ぎょうせい,2012.
参考文献: 高橋雄造『博物館の歴史』法政大学出版局,2008.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報