日本大百科全書(ニッポニカ) 「大衆行動」の意味・わかりやすい解説
大衆行動
たいしゅうこうどう
mass behavior 英語
Massenverhalten ドイツ語
comportement masse フランス語
特定の個人、特定の集団の枠を超えて、不特定多数の人々、すなわち大衆が行う行動の集合をいう。また、デモンストレーションのように、大衆運動の担い手である大衆が、その目的を達成するために行う行動をいう場合もある。
大衆行動は、一般的には自然発生的なもので、その参加者は互いに相互作用のない匿名の個々人である。非組織性、心的同質性、情動性、非合理性などの特性をもつ大衆が行う行動の集合であるから、大衆行動は、情動的、非合理的な行動になりやすいこと、未組織で持続性をもたないこと、また、そのため操作されやすい、といった特徴が指摘できるのである。大衆行動が組織化され、持続性をもつと大衆運動となる。また、操作された結果、群集行動に陥ることもある。
大衆行動は、流行現象やパニックなどの集合現象を生む。大衆のひとりひとりは、各自の判断と自由意志に基づいて行動するが、特定の条件のもとで相互に影響しあいながら、伝播(でんぱ)、普及し、大衆行動となり、まとまった集合現象となるのである。
大衆を生んだ社会的条件は、そのまま大衆行動を進展させる社会的背景になっているが、マス・コミュニケーションの発達は、大衆行動の重要な規定要因になっている。マス・メディアは、広範囲の受け手大衆に、共通の擬似環境をつくりだし、共有の環境世界を形成することによって、それへの適応を迫るのである。マス・メディアによって結び付いている大衆は、共有したマス・メディアの擬似環境に適応行動する。現代社会における大衆行動は、マス・メディアに依存して展開しており、マス・メディアによって特徴づけられているのである。
[川本 勝]
『N・J・スメルサー著、会田彰・木原孝訳『集合行動の理論』(1973・誠信書房)』▽『星野安三郎編『大衆行動の権利』(1969・法律文化社)』