パニック(読み)ぱにっく(英語表記)panic

翻訳|panic

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パニック」の意味・わかりやすい解説

パニック
ぱにっく
panic

経済用語としては恐慌のこと。社会心理学では乱衆とよばれる。劇場火事でわれ先に非常口に殺到する観客、物不足の怪情報に踊らされてスーパーマーケットに押し寄せる主婦などにみられるように、人々の日常生活を脅かす現実の、あるいは想像上の危険ないし危機に直面して、その処理や解決の手段・方法が極度に制約されているとか、ルーティーン化された制度的役割行動が有効性を失うと予想されるために、衝動的、非合理的性格の強い回避、逃走、獲得などの集合行動を同時集中的に引き起こす、有効な統制・規制のとれない群衆なだれや社会的な混乱などの異常事態をいう。多くの場合、予期しない突発的なできごとや事件が引き金になって発生するが、パニック現象の基底に、生命や財産の安全性への人々の潜在的な不安や恐怖が通例存在することを忘れてはならない。こうしたできごとや事件の情報回路として、マス・メディアは今日きわめて重要な役割を担っている。

 1938年10月、火星人襲来をテーマにしたオーソン・ウェルズ脚色のラジオドラマは、少なくとも100万のアメリカ人をパニック状態に陥れたといわれている。このパニックを調査研究した社会心理学者H・キャントリルは、批判能力がパニック行動への重要な歯止めであると指摘し、さらに聴取者のパーソナリティー特性とラジオの聴取状況とが批判能力の効果的な働きに深く関連していたと述べている。確かに教育による批判能力の育成強化は「パニック行動への最良の予防策」であるとしても、社会的なパニック現象の場合、人々の潜在的な不安や恐怖を醸成する政治、経済、文化の生活諸領域における矛盾ひずみが根本的に解消されない限り、パニックはふたたび繰り返されるであろう。災害社会学や災害心理学発展とともに、不可抗力な災害時に憂慮されるパニック現象へのリスク管理的視点からの研究関心が高まっている。

[岡田直之]

『H・キャントリル著、斎藤耕二・菊池章夫訳『火星からの侵入――パニックの社会心理学』(1971・川島書店)』『宮本悦也著『パニック学入門――残像を殲滅せよ』(1971・時事通信社)』『N・J・スメルサー著、会田彰・木原孝訳『集合行動の理論』(1973・誠信書房)』『大原健士郎編・解説『パニック』(『現代のエスプリ』128号・1978・至文堂)』『高橋郁男著『パニック人間学』(1982・朝日新聞社)』『J・P・ペリーJr.、M・D・ピュー著、三上俊治訳『集合行動論』(1983・東京創元社)』『安倍北夫著『パニックの人間科学――防災と安全の危機管理』(1986・ブレーン出版)』『釘原直樹著『パニック実験――危機事態の社会心理学』(1995・ナカニシヤ出版)』『藤竹暁著『パニック――流言蜚語と社会不安』(日経新書)』『安倍北夫著『パニックの心理――群衆の恐怖と狂気』(講談社現代新書)』

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