日本大百科全書(ニッポニカ) 「大陸成長説」の意味・わかりやすい解説
大陸成長説
たいりくせいちょうせつ
大陸が地質時代とともに成長し、その面積が増大したとする説。北アメリカ大陸をつくっている岩石の時代は、大まかにみて、大陸の中央部でその岩石がもっとも古く、外側に向かってしだいに若くなるという傾向がある。すなわち、ハドソン湾から五大湖域にかけては30億~25億年前の岩石がおもに分布し、それを取り囲むようにして外側に向かって順に、25億~16億年前、16億~9億年前、9億~5億7000万年前、もっとも外側に5億7000万年前より若い古生代以降の岩石が分布する。ヨーロッパ大陸では、岩石は東でもっとも古く、西に向かってしだいに若くなる傾向がある。オーストラリア大陸では岩石は西側でもっとも古く、東に向かってしだいに若くなる傾向がある。また、北アメリカ大陸東部のアパラチア山脈では、古生代の厚い堆積(たいせき)物が造山運動を被って変成、褶曲(しゅうきょく)し、その西側のより古い岩石を縁どるように分布している。さらに同大陸西部のロッキー山脈、海岸山脈、シエラ・ネバダ山脈においても、古生代―中生代―新生代の、かつて地向斜堆積物とされた地層が造山運動を被って変成、褶曲し、東側のより古い岩石を縁どって分布している。時代の異なる地層のこのような分布パターンに基づいて、大陸はより古い核の周りに、新しい岩石がしだいに付加して成長していくという考えが生まれた。
しかしながら、より細かに岩石の時代と分布を調べてみると、たとえば北アメリカ大陸の西縁部にも10億年前の岩石がごくわずかながら分布し、南アメリカ大陸西縁の若い岩石からなるアンデス山脈にも20億年前の岩石が分布するなど、大陸成長説ではうまく説明することができない岩石の分布が各地で知られている。
大陸成長説は1850年代に唱えられ始め、1910年代にウェゲナーによって大陸移動説が提唱されてからは、それを考えに入れたうえでさまざまに議論されてきた。1970年代に入ってプレートテクトニクス理論が確立されるに至り、大小の大陸は、ウェゲナーが示した大陸移動に加えて、より複雑な分離や衝突、消滅を行ってきたことが明らかにされた。したがって北アメリカ大陸に代表されるとされた大陸成長説はそのままでは成り立たなくなった。
始原大陸がいつごろどのようにして生成したかは明確ではないが、それ(またはそれら)は、地球生成の初期(40億年前ごろ)に、マグマの生成に始まる火成活動によって花崗(かこう)岩質岩石が生じ形成されたものと推定されている。その後、始原大陸がどのように成長、変遷してきたかということは、単にプレートテクトニクス理論によってのみ説明できることではない。
[吉田鎮男]