翻訳|magma
地下深部で発生する高温の溶融物質で,冷却し固結すると火成岩を生じる。岩漿(がんしよう)とも呼ばれるが,最近はこの語はあまり使われない。マグマは本来液体のみを意味するが,実際には結晶や分離したガスなどを少量含んでいるものもマグマと呼んでいる。マグマが地表に流出したもの,およびそれが固結したものを溶岩という。
マグマの大部分はケイ酸塩溶融物で,主成分元素はO,Si,Al,Mg,Fe,Ca,Na,K,Tiなどで,揮発性成分として,H2O,CO2,S,Fなどを含んでいる。マグマの化学組成の範囲は広く,玄武岩質,安山岩質,流紋岩質(あるいは花コウ岩質)のもの,さらには超マフィックのものまで存在する。SiO2で35~80重量%もの範囲がある。また,まれではあるが,炭酸塩を主とするマグマ(カーボナタイトマグマ)や硫黄を主とするマグマも存在する。
マグマの温度は,マグマが地表に噴出したときに測定されたもののうちで比較的高い温度のものをあげると,玄武岩質マグマは1200℃前後,安山岩質マグマは1100℃前後,流紋岩質マグマは900℃前後である。ただし,測定されたマグマ(溶岩)の多くはすでに結晶を晶出させており,結晶を生じる前のこれらのマグマはもう少し高温であったと考えられる。
マグマの粘性はやはり噴出したマグマ(溶岩)について測定が行われている。玄武岩質溶岩では102~104ポアズ,安山岩質溶岩では107~109ポアズという値が得られている。しかしこれらの値の多くはやはり結晶をかなり含んだマグマ(溶岩)の値で,結晶を晶出させる以前の,より高温の状態ではもっと粘性は低くなる。さらに,多くのマグマは一定の温度でも圧力が上昇すると粘性はやや低下する。したがって地下深部ではマグマの粘性は地表付近における場合よりずっと低いことが予想される。
マグマの密度はやはり化学組成と圧力や温度などによって変化する。玄武岩質マグマの密度は1気圧では2.60~2.70g/cm3,安山岩質マグマは2.4~2.5g/cm3,無水の流紋岩質マグマは約2.2g/cm3である。圧力が上昇すると,普通の造岩鉱物に比べて密度の増加の割合は大きく,例えば玄武岩質マグマは1万気圧では2.70~2.80g/cm3になる。
大部分のマグマは複雑なケイ酸塩の化学組成を有しており,その構造もきわめて複雑である。しかし,構造の基本的な単位は(Si,Al)O4で,その連結の仕方(あるいは構造の種類)もケイ酸塩鉱物の場合と同じらしい。ケイ酸塩鉱物と異なる点は,一つのマグマ中でも何種類もの違った構造が混じって存在することである。それらの異なる構造の比率はマグマの化学組成によって変化する。例えば,流紋岩質マグマは玄武岩質マグマに比べてシリカ鉱物のようなテクトケイ酸塩の構造を有する部分が多く,カンラン石のようなネソケイ酸塩の構造を有する部分が少ないらしい。
マグマは地下深部物質が融解して発生する。ほとんどのマグマが発生する部分は深さにして数十~150kmの範囲で,主として上部マントルと考えられる。ただし一部のマグマは地殻の下部で発生する可能性がある。上部マントルや地殻下部は全般に固体であり,局部的に温度が上昇したり圧力が低下したりして,その部分に一時的にマグマが生じると考えられる。上部マントルは主としてカンラン岩(主としてカンラン石と輝石よりなる岩石)で構成されていると考えられている。カンラン岩が融解してマグマを生じる場合,カンラン岩が全部融解するのではなく,部分的に融解し,溶けやすい成分(SiO2,Al2O3,CaO,Na2O,K2Oなどに富む成分)が液に濃集し,溶けにくい成分(おもにMgOに富む成分)は残った結晶中に濃集する。部分的に融解して生じた液は,はじめ結晶の粒間に存在しているが,しだいに集まってマグマとなる。こうして生じたマグマを初生マグマprimary magmaと呼ぶ。上部マントルで生じる初生マグマとして,比較的MgOあるいはカンラン石成分に富む玄武岩質マグマが広い温度・圧力範囲にわたって生じることが実験的に示されている。ただし圧力や温度の変化によってその化学組成は変化する。例えば,温度がほぼ一定で圧力が高くなると比較的SiO2に乏しく,またNa2O,K2O(アルカリ)に富み,アルカリ玄武岩質あるいはアルカリピクライト質になる。一方,圧力がほぼ一定で温度が上昇すると,カンラン石成分に富みピクライト質(カンラン石成分に富む組成)になる。さらに,初生マグマの化学組成は揮発性成分によって著しく変化し,玄武岩質でなくなることもある。例えば,H2Oが存在すると初生マグマはSiO2に富むようになる。Mgに富む安山岩質マグマのあるものは,こうして生じた初生マグマと考えられている。またCO2が存在すると逆にSiO2に乏しくなる。キンバーライトやある種のカーボナタイトのマグマは,CO2の存在下で生じた初生マグマに近いものらしい。初生マグマは発生後上昇するが,そのまま地表に噴出することはまれで,普通は上昇の途中でマグマ溜りをつくり,そこで結晶作用を行って化学組成を変化させると考えられる。玄武岩質マグマが地殻内の比較的浅いマグマ溜りで結晶作用を行うと,比較的Mgに富むカンラン石や輝石,およびCaに富む斜長石などが晶出する。これらの結晶がマグマ中で沈降してマグマから取り去られると,残ったマグマはしだいにSiO2やアルカリに富むようになり,安山岩質マグマやデイサイト質マグマを生じる。マグマはまた上昇の途中で周囲の岩石を同化したり,あるいはそれと反応したりして化学組成を変化させることもある。さらに,マグマ溜りにおいて前後して上昇してきた2種類以上のマグマが混合して化学組成を変化させることもある。玄武岩質マグマの結晶作用によって生じ得るフェルシックマグマの量比はもとの玄武岩質マグマに対してきわめて小さい。したがって,大量に噴出している流紋岩質マグマや大量の花コウ岩をつくった花コウ岩質マグマは,玄武岩質マグマから生じたのではなく,大陸地殻の下部が大規模に融解して生じたのではないかと考えられる。
→火成岩 →火成作用
執筆者:久城 育夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
岩漿(がんしょう)ともいう。地下(地球あるいは惑星の内部など)で形成された高温で溶融状態の岩石質物体。これが冷却固結してできたのが火成岩である。また、これが地上に噴出して形成されたものが火山である。マグマは液状の溶融体のみをさし、結晶を多量に含んだものは別の名称でよぼうという考え方もある。しかし、現実には純粋に液状のものとして地下から上昇してくるとは限らず、また冷却の過程で結晶が増加していくので、結晶を含めて広義で用いることが多い。このほか、「地下で発生した高温の流動性物体」という説明も可能である。デイサイト(石英安山岩)質の場合のように、ほとんど固体に近いような状態で地上に押し上げられてくる場合があるが、これもマグマとよぶことがある。
[矢島敏彦]
マグマの中にはほとんどあらゆる元素が含まれているが、そのなかでも多いものは酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、リン、マンガン、水素などである。火山岩ではマグマが急冷してできたチルドマージンchilled margin(急冷周縁相)がマグマの組成を示すものと考えられている。マグマの中に含まれていた水分、二酸化炭素その他の揮発性成分は大部分空中あるいは周囲に放出される。そこで、岩石の分析値はそのままマグマの化学組成を示すものではない。逃げ去った揮発性成分を推定して元の組成を復原しなければならない。
揮発性成分としては炭素、硫黄(いおう)、フッ素、塩素などが含まれる。地域によっては、炭酸塩を主成分とするマグマ、硫化物を多量に含むマグマなどがある。地上に噴出するマグマの種類はさまざまであるが、地下で最初に発生するマグマの種類は限られていると考えられており、この親マグマのことを本源マグマとよぶ。おもな本源マグマは玄武岩質マグマ、花崗岩(かこうがん)質マグマであるが、このほかにも安山岩質マグマもあり、さらに、玄武岩質マグマにもソレアイト質のもの、アルカリ質のものなど、いくつかの系統があると推定されている。先カンブリア時代には超塩基性マグマも存在したらしい。
[矢島敏彦]
地下浅所でのマグマの温度はおおよそ650~1300℃の間である。マグマは地殻下部からマントル上部(地下数十~数百キロメートル)の深さで発生する。この深さの位置に地震波の速度が周辺より遅くなるところ(低速度層)があって、これがマグマ発生帯であるとされている。地下の温度の上昇とか、圧力の減少などによって部分溶融がおこりマグマが発生し、それが集まると、マグマの密度は周辺の岩石の密度よりわずかに低いので、浮力によって徐々に上方に向かって移動してゆくことになる。周囲の岩石の密度と同じところまでくると、マグマ溜(だま)りをつくる。マグマ溜りには地表近く(火山直下)に位置するものから、かなりの深所に位置するものまで、いくつかの種類のものがあるらしい。マグマ溜りの中で結晶化が進むと、未固結の部分の水などの揮発性成分の圧力が高くなり、ふたたび地上にマグマを押し上げようとする力が働く。マグマ溜り付近に働く広域的圧力(プレートを押す力)はマグマ上昇の引き金となる。マグマがさらに上昇して周辺の圧力が低下すると、揮発性成分が飽和して気相として分離して発泡することになる。マグマが発泡をおこすと体積が増大し、それが急激におこると噴火作用となる。マグマ発生のより巨視的原因としては、マントル内の圧力解放とマントル対流の上昇、マントル沈み込みの際の粘性摩擦熱、ホットスポットhot spotなどの熱源が考えられている。
[矢島敏彦]
『久城育夫・荒牧重雄編『岩波講座 地球科学3 地球の物質科学Ⅱ』(1978・岩波書店)』▽『横山泉・荒牧重雄・中村一明編『岩波講座 地球科学7 火山』(1979・岩波書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
岩漿(しょう)ともいう.天然に出現する溶融ケイ酸塩.地下深部には炭酸塩類を主体とするマグマも存在しうるとされる.その化学組成により,玄武岩マグマ,安山岩マグマ,流紋岩マグマなどに区別される.これらのうち,玄武岩マグマは分別結晶作用によって,より酸性な安山岩質,あるいは流紋岩質マグマを生成すると考えられている.玄武岩マグマはその組成にもとづいて,トレイ岩マグマ,アルカリ岩マグマ,および高アルミナ玄武岩マグマに分類されている.これら3種類の玄武岩マグマは,それぞれ本源マグマとよばれ,組成上ではトレイ岩,高アルミナ,アルカリ玄武岩マグマの順にアルカリの含量が多くなる.一般に,(Na2O + K2O)/SiO2比をパラメーターにとって区別される.玄武岩マグマの温度は1200 ℃ と推定され,酸性になるにつれ(SiO2の量が多くなることを意味する)マグマの温度は低下し,水蒸気圧が大きくなると考えられている.地下深部のマグマは多量の水を溶解しているが,マグマの上昇によって圧力が下がると,水は急激にマグマより放出され,脱ガス作用によって火山の噴火が起こるとされている.とくに安山岩質マグマの噴出ではこれが大きな噴火の要因とされる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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(井田喜明 東京大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…草津3万4240l/min,別府2万2200l/min,箱根1万8474l/min,熱海1万6290l/min,蔵王1万5000l/min,登別1万0390l/minなどが日本の湧出量の大きい温泉地である。プレート生産地帯ではマグマの生産量がプレート沈み込み地帯の数倍に達しているので,降水量や地質条件に恵まれていると大きな温泉湧出量を示すことになる。その好例がアイスランドである。…
…火成岩とは地下深部で発生するマグマが地表に噴出したり,あるいは地殻中に貫入し,冷却・固結して生じた岩石の総称である。マグマが地表に噴出して生じた火成岩を噴出岩または火山岩と呼ぶ。…
…マグマの発生からその上昇,冷却・固結にいたる間に,マグマによってひきおこされる現象の総称。火成作用は火山作用volcanismと深成作用plutonismに大別される。…
…晶出分化作用ともいう。化学組成の均一なマグマから化学組成の異なる種々の火成岩が生ずることをマグマの分化と呼ぶ。特に,結晶作用によって,もとのマグマとは異なる化学組成の岩石が生ずることを結晶分化作用という。…
※「マグマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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