プレートテクトニクス(読み)ぷれーとてくとにくす(英語表記)plate tectonics

翻訳|plate tectonics

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プレートテクトニクス」の意味・わかりやすい解説

プレートテクトニクス
ぷれーとてくとにくす
plate tectonics

地球表面を覆う厚さ100キロメートル程度のリソスフェアをいくつかのプレートに分割し、それらの運動や相互作用の結果として、地球上にみられるさまざまな地学現象を説明する考え。1960年代後半から爆発的に流行し、地球科学における革命とさえいわれた。大陸移動説マントル対流説海洋底拡大説の延長上に位置する考えで、しばしば混同もされるが、これらに比べるとプレートの運動の扱いが幾何学的にはるかに厳密である。その成立に貢献したマッケンジーDan P. Mckenzie(1942― )、パーカーRobert L. Parker(1942― )、モーガンW. Jason Morgan(1935― )、ル・ピションXavier Le Pichon(1937― )などは、いずれも当時30歳前後の若手研究者であった。

[吉井敏尅]

プレートテクトニクスの幾何学

プレートテクトニクスの基本的な枠組みはきわめて単純で、地学的というよりはむしろ幾何学的である。まず、地球表面を覆う硬い層のリソスフェアを、3種類の境界によって、いくつかのプレートに分割する。中央海嶺(かいれい)はプレートが生産されて両側に拡大する形の境界、海溝は一方のプレートが他方の下に沈み込み消滅する形の境界、トランスフォーム断層は二つのプレートがすれ違う形の境界であり、これらは、地質・地形・地震活動などをもとに決められる。地球全体を何枚のプレートで覆うかは研究者によっても研究内容によっても異なるが、10枚から20枚程度が普通である。

 プレートテクトニクスでは、このようにして分割されたプレートがそれぞれの内部では大きく変形せず、剛体的に独立に運動するものと仮定する。この仮定により、地球表面に拘束された球殻であるプレートの運動は、地球の中心を通る一つの軸の周りの回転運動で表すことができる。したがって、二つのプレートの相対運動も、一つの軸の周りの回転運動となる。こうした回転運動は、回転ベクトル、すなわち回転軸の向きと回転速度によって表される。

[吉井敏尅]

プレートの相対運動

プレートの運動を計算するのに必要な観測値は、主としてプレートの境界付近で得られるので、われわれがまず知ることができるのは、プレート間の相対運動である。プレートの相対運動を決めるための観測データは、中央海嶺付近でとくに多く、トランスフォーム断層の走向や地震の発震機構からは回転軸が、地球磁場の反転の歴史の化石ともいえる地磁気異常の縞(しま)模様からは回転速度が決まる。これに対し、海溝のような沈み込み型の境界では、とくに回転速度を決めるための情報が少ない。

 プレートAのプレートBに対する相対運動を、回転ベクトルωABで表すことにしよう。いま、AからNまであるプレートがそれぞれ剛体的に運動するならば、相対運動の回転ベクトルのループは閉じており、ωAB+ωBC+……+ωNA=0という関係が成り立つ。すなわち、相対運動を決めにくい沈み込み型のような境界でも、相対運動のよくわかるプレートを中継ぎにしてループをつくることができれば、この関係を用いて相対運動を知ることができる。日本列島の下には太平洋プレートが年10センチメートル程度の速度で沈み込んでいるとされているが、これも北アメリカプレートなどを中継ぎにして計算されたものである。プレートの相互作用によりさまざまな地学現象を説明するプレートテクトニクスにおいては、プレートの境界は活発な変動帯にほかならない。したがって、そこでの相対運動を正しく決めることは、変動帯の研究にとってきわめて重要である。

[吉井敏尅]

プレートの実体

プレートを剛体の球殻と考え、その相対運動を幾何学的に扱うだけなら、プレートが何でできているかは問題にならない。しかし、1970年代になってプレートテクトニクスの議論がより広く深くなるにしたがい、プレートの実体についての研究が盛んになった。プレートはリソスフェアを分割したものであるから、結局はリソスフェアの実体ということになる。

 リソスフェアの定義としては、地震波の上部マントル低速度層より上の部分とするのが、現在では一般的である。この低速度層は、マントルを構成する岩石が部分溶融していると考えられており、いわゆるアセノスフェアに相当する。低速度層までの深さ、すなわちプレートの厚さにはかなりの地域差がある。とくに、海洋地域のプレートには年代とともにその厚さを増すという著しい特徴があり、中央海嶺で形成されたときはきわめて薄く、1億年後には100キロメートル程度にまで成長すると考えられている。海洋地域では海底年代の増加に伴って、水深の増加や地殻熱流量の減少など、上部マントルが冷却していく過程を表す現象が観測されている。一方、大陸地域においては、低速度層が明瞭(めいりょう)でないことも多く、プレートの実体はややあいまいである。海洋地域と同じような冷却の過程が認められるとされているが、その時間スケールはほぼ一桁(けた)長い。

[吉井敏尅]

プレート運動の原動力

プレートがなぜどのような力により動くのかは、まだ完全には解決されていない大問題である。海洋底拡大説の時代には、いわゆるマントル対流原動力とされることが多かったが、実際のプレートの動きを説明するためには、きわめて不自然な形の対流を考えなければならないという欠点があった。現在では、プレートがその下のアセノスフェアよりわずかに大きな密度をもつことによる重力的な不均衡が、原動力としてもっとも有力視されている。これも一種の対流と考えられなくもないが、プレートの存在そのものが対流の原因となっており、対流に乗ってプレートが移動すると考える古典的なマントル対流とはかなり異なった形のものである。

[吉井敏尅]

日本列島とプレートテクトニクス

日本ではプレートテクトニクスというと、海溝でのプレートの沈み込みとそれに伴う地震が強調されがちだが、本来は全地球を考えたより大きな考えであることに注意しなければならない。

 20世紀末ごろより、北アメリカ大陸西岸やアジア大陸東岸が、プレートによって運ばれた地塊の吹きだまりであるとする考えが注目され、付加テクトニクスなどとよばれている。この考えによれば、日本列島の大部分もこうした付加地塊により成り立っているという。日本列島の移動により日本海が形成されたとする説とともに、日本列島形成に関する今後の研究に大きな影響を及ぼすことになろう。

 超長基線電波干渉計(VLBI)や全地球測位システム(GPS、汎(はん)地球測位システム)など新しい宇宙測地技術により、プレートの運動が短時間で直接実測できるようになった。

 プレートテクトニクスは地球の表面に近い深さ数百キロメートルまでの地殻やマントルの運動によって地学現象を説明するものであるが、これに加えて1990年代初めごろより、マントル全体に及ぶ大規模な上昇・下降の流れ(プリューム)によってより大規模で長い年代にわたる地球の変動を説明する「プリュームテクトニクス」という考えが登場してきた。

[吉井敏尅]

『河野長著『地球科学入門――プレート・テクトニクス』(1986・岩波書店)』『上田誠也著『プレート・テクトニクス』(1989・岩波書店)』『瀬野徹三著『プレートテクトニクスの基礎』『続 プレートテクトニクスの基礎』(1995、2001・朝倉書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プレートテクトニクス」の意味・わかりやすい解説

プレートテクトニクス
plate tectonics

地球の表層をつくる地殻と最上部マントルで構成されるプレートの水平運動を,海陸の移動や地震火山噴火の発生,山脈の形成といった地球上のさまざまな地殻変動の原因として説明する理論。プレートは流動性の面からリソスフェア(岩石圏)とも呼ばれ,性質は低温で流動性が小さく,剛体に近い。一方,リソスフェアの下にある,同じく上部マントルを構成するアセノスフェア(岩流圏)は高温で,リソスフェアに比べてやわらかく流動しやすい性質をもつ。地球上には大小十数枚のプレートがあるといわれ,これらが球面上の剛体の運動を規制するオイラーの定理に従って,変形することなくアセノスフェアに載って地球上を水平に運動しているとみられる。

プレートの厚さはおもに海洋を載せている海洋プレートで約 10~100km,おもに陸地を載せている大陸プレートで約 100~200kmといわれ,年間 5~10cmの速度で相互に移動している。それらのプレートの境界では,プレート同士が発散したり(離れる),収束したり(衝突する),あるいは互いに横ずれしたり(すれ違う)している。

プレート発散境界(拡大境界)は大洋のほぼ中央部を走る中央海嶺にあたり,そこではマントル物質が上昇することでプレートが左右に広がって新しい海底を生み出し,割れ目から噴出したマグマや堆積物などが海洋地殻を形成する。中央海嶺の頂部は急深な裂け目が多く,直下では浅い微小地震が頻発する。また,マグマが冷やされてできた玄武岩質の枕状溶岩が露出していたり,熱水噴出孔がみられたりする。最大規模の中央海嶺である大西洋中央海嶺は大西洋を南北に S字状に縦断し,大西洋の海洋地殻を生み出している。その一部は陸地に現れ,アイスランドの国土を貫いている。東アフリカのアフリカ大地溝帯(グレートリフトバレー)では大陸プレートが東西に分裂している。

プレート収束境界では,海洋プレートが海溝またはトラフで,大陸プレートの下に沈み込んでいる(→沈み込み帯)。この際,海洋プレート上部の岩石がはぎ取られ付加体が形成されることで,日本列島のような弧状列島(島弧)や,アメリカ大陸のロッキー山脈アンデス山脈のような大陸弧ができる。海洋プレートの沈み込みによって,大陸プレート側の上部マントルでマグマがつくられ,火山および火山帯が形成される。プレート収束境界では大陸プレート同士が衝突して大規模な造山運動が起こることもあり,アルプスヒマラヤ山脈が形成された。プレート収束境界ではプレートの動きがひずみを生み出し,たびたび巨大地震が発生する。

プレート横ずれ境界はトランスフォーム断層と呼ばれ,太平洋の中央海嶺の一部をなす東太平洋海膨などではプレート同士がすれ違って,海膨(海嶺)軸に直交する断層が形成されている。陸域では北アメリカ西岸のサンアンドレアス断層がその例である。プレート横ずれ境界でも応力やひずみが蓄積し,しばしば地震などの地殻変動が起こる。

プレートテクトニクスの理論のさきがけとなったのは,1915年にアルフレート・ウェゲナーが著書『大陸と海洋の起源』で提唱した大陸移動説である。当時は大陸移動の原動力の説明などについて不十分な点が多く,広く受け入れられなかった。その後,1928年にアーサー・ホームズが移動の原動力をマントル対流とする説を唱えた。1950~60年代古地磁気学や海洋底観測の発展に伴い,岩石が示す過去の地球磁場(地磁気)の方向が明らかになり,大陸はもともと一つで,2億年前から 1億年前の間に大西洋から東西に分離したという海洋底拡大説が唱えられた。この説は,過去の地球磁場の逆転の繰り返しが記録された海洋底の地磁気縞模様の発見により強化され,1960年代後半の J.ツゾー・ウィルソンらのプレートテクトニクス理論の確立につながった。1970年代以降には,プレート運動のおもだった原動力が,マントルに向かって沈み込んだプレート部分(スラブ)による,表層プレートを引っ張る力であることがわかってきた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報