中国の春秋時代、孔子門下中の優れた弟子10人のこと。『論語』先進篇(へん)に「徳行には顔淵(がんえん)、閔子騫(びんしけん)、冉伯牛(ぜんはくぎゅう)、仲弓(ちゅうきゅう)。言語には宰我(さいが)、子貢(しこう)。政事には冉有(ぜんゆう)、季路(きろ)。文学には子游(しゆう)、子夏(しか)。」とあり、孔子門下七十子中のおもだった弟子10人をその長所によって4分類している。これを後世「四科十哲(しかじってつ)」とよぶ。徳行とはすべての行為が美(よ)いこと。言語とは諸侯間の応対の修辞に優れること。政事とは治国の才能があること。文学とは古典に通暁することである。これを四科とよぶのは後漢(ごかん)(『論衡(ろんこう)』問孔篇、『後漢書』鄭玄(じょうげん)伝の語中)のころからであり、また、この10人を孔門中の優秀者と考えて十哲の名称を与えたのは唐(とう)代(『史通』暗惑(あんわく)篇)から始まるようである。しかし、ほかにも曽参(そうしん)、子張(しちょう)、有若(ゆうじゃく)らの優れた弟子がいるので、十哲と限定することは後の学者の議論を招いた。
とくに曽参が含まれないことに宋儒(そうじゅ)の不満がおこり、朱子(朱熹(しゅき))の『論語集注』は、十哲のこの章とその前章の「子曰(いわ)く、我(われ)に陳蔡(ちんさい)に従ふ者は皆(みな)門に及ばず」を合して1章となし、十哲は、孔子が陳蔡の地での厄難につき従った者のみを列したため曽参は含まれていないと解した。だが、これは諸々の点で無理があり、従いがたい。
[宇野茂彦]
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