中国、後漢(ごかん)の思想家王充(おうじゅう)の著書。30数年の歳月を費やし、『論衡』30巻、85篇(へん)を著した。『隋書(ずいしょ)』経籍志はこの書を「雑家」に分類する。その内容は、不遇の生涯を反映してか、逢遇(ほうぐう)篇を冒頭に配し、仕官の遇・不遇は才能、行操と無関係であると説き、これを偶然によるものと解釈した。この偶然性は人為・有為を排する自然無為の天道観とかかわり、人間の運命、貴賤寿夭(きせんじゅよう)等々は、生命を得ると同時に天の星宿からもたらされる気の厚薄、星の尊卑により決定するという独得な運命論を展開した。天を自然天とする観点は、災異天譴(てんけん)説の批判ともなる。この批判は時の治政、帝王の統治を合理化する傾向をもつ。この線上に、王充は、漢代、とくに章帝の時代を聖世として頌(しょう)する大漢聖王論を展開する。また、神仙不老長生説の批判は無鬼論、薄葬論、祭祀(さいし)論へと体系化され、祭祀と吉凶禍福とは無縁であることを論ずる。これらの無神論は民間宗教批判とも深くかかわっている。
[大久保隆郎]
中国,後漢の王充の著書。85編。著述の主旨は,いっさいの虚偽の知識を批判して公正な真理を導きだすことにあった。内容はひろく自然観,人性論から歴史,政治思想に及ぶ。気一元論から死後の霊魂の存続を否定し,気の集散による生命の生滅を説いて,桓譚(かんたん)以来の無神論を徹底させ,物質的自然の固有運動を人間世界におし及ぼし実践努力の及びえない運数支配の命定論(宿命)を深く信じたため,祖霊崇拝の礼教道徳や迷信のいっさいを否定し,他方で現王朝の命運を称賛する反尚古の大漢思想を説いて,当時公認の天人感応の神秘的な災異説の根拠を失わせた。孔子や孟子の言行をも批判の対象としたため,宋代以降の体制教学から非難をあびたが,確実な論証と旺盛な批判精神はながく中国知識人の糧となった。
執筆者:戸川 芳郎
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