中国,魏・晋時代(220-420)の作と考えられる楽府(がふ)体詩。郭茂倩(かくもせん)《楽府詩集》巻七十三に〈焦仲卿の妻〉の題で,徐陵《玉台新詠》巻一には〈古詩,焦仲卿の妻の為に作る〉の題で収められる。《孔雀東南飛》とも呼ばれるのは,この句で詩が始まるからである。この詩に付された序によれば,焦仲卿は後漢時代末の,廬江の役所の下級役人。その妻の劉氏がしゅうとめに嫌われ本家(おさと)に帰される。本家では劉氏を別の男に再婚させるが,その結婚式の日,劉氏は焦仲卿に操を立てて投身自殺をする。それを聞いた焦仲卿も首をくくって死ぬ。こうした下級官吏の家におこった悲劇を,おそらく民間の物語詩を基礎にして長編の歌謡にまとめ上げたもの。封建的な〈家〉の論理に疑問を呈する内容と,同時代の他の楽府体詩には見られない平明な表現とは注目に値する。
執筆者:小南 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国、六朝(りくちょう)時代の長編叙事詩。『玉台新詠(ぎょくだいしんえい)』は「焦仲卿(しょうちゅうけい)の妻の為(ため)に作る」と題し、『楽府詩集(がふししゅう)』は「焦仲卿の妻」と題するが、夫婦の別れがたきをたとえて「孔雀東南に飛び、五里に一たび徘徊(はいかい)す」と説き起こされる第一句によって、「孔雀東南飛」とよばれることが多い。1700字を超える五言の詩。序文によれば、後漢(ごかん)末の建安年間(196~220)のできごとであるという。焦仲卿に嫁いだ劉蘭芝(りゅうらんし)は、新婚まもなく義母に排斥され、やむなく実家に帰ると、兄に再婚を強要される。生木を裂かれた夫婦は死を誓い、劉蘭芝は入水(じゅすい)し、焦仲卿は首をくくる。場面設定や登場人物の対話形式など劇的な構成に特色があり、六朝民歌の重要作品。
[成瀬哲生]
『小尾郊一・岡村貞雄訳注『古楽府』(1980・東海大学出版会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…《詩経》の305編の詩歌も口承文学の代表になるが,《詩経》については歌謡の項において述べることにする。 詩の分野での代表的な口承文学は,《玉台新詠》に載せられている〈古詩,焦仲卿の妻の為に作る〉(ひとつに初句をとって〈孔雀東南飛〉ともいう)と題される長編の叙事詩である。この作品は,お互いに愛しあいながらも嫁が義母にいためつけられて,ついに二人ともそれぞれに自殺するという題材を,五言353句(現行本では357句に作る)にうたいこんだ文芸で,時代を後漢の建安年間(196‐219)にとり,6世紀になって《玉台新詠》に文字として集録されるまで,広く民間各地にうたいつがれてきたものであった。…
…五言詩の代表的詩人曹植(曹丕の弟)は豊富な題材を熱情的にうたったが,真の主題は漢の〈賦〉と同じく,人間の運命への疑問であった。この800年間で最大の長編物語詩《孔雀(くじやく)東南飛》も建安年間の作といい,五言詩の成熟を示す。魏の阮籍(げんせき)は〈詠懐詩〉82首において,その疑問をさらにつきつめた形で提出し,いっそう思索的な孤独の詩人で独自の風格を有した。…
※「孔雀東南飛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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