漆工芸の加飾法の一つで,漆地に彩漆(いろうるし)を象嵌(ぞうがん)したもの。存清とも書く。《髹飾録》には〈即塡彩漆也〉とあり,中国では塡漆(てんしつ)と呼んだ。やや厚肉に塗った漆地を彫って各種の彩漆を充塡し,平らに研出して文様をあらわし,輪郭や細部は鎗金(そうきん)(沈金)の線でくくる。明代初期に創案されたが15世紀前期(宣徳期)の遺品が最も古く,嘉靖~万暦期(1522-1620)に最盛をむかえた。大明宣徳年製の銘を持つ〈楼閣人物存星器局〉(蟹仙洞)が傑出している。17世紀には漆地に彩漆で文様をかき,鎗金を加えた技法に変化してくるが,《髹飾録》にいう〈鎗金細鉤描漆〉の技法がこれに当たると思われる。同書には〈金理鉤描漆〉,すなわち輪郭線を金描きにしたものがあり,そのほか線の部分を素彫りにしたもの,黒漆を充塡したものなども見られる。〈存星〉という語は日本でできたようであるが,その出自は不明で,〈作人の名也〉(《万宝全書》)また〈彫りに星の様なる物ある故〉(《茶具備討集》)とあってあいまいである。星というのは彩漆に含まれる粗い顔料粒子をさすのかもしれない。日本では遅くとも16世紀初めには堆朱(ついしゆ)や鎗金の器とともに舶載されており,《君台観左右帳記》に〈存星〉の記載があり,沈金に似たものでまれである,と説明を加えている。日本で存星を模した作品がつくられるのは江戸時代で,玉楮象谷(たまかじぞうこく)が独自に工夫して象谷塗として広めた。
執筆者:中里 寿克
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中国で明(みん)代初期(15世紀ころ)に創始された填漆(てんしつ)という漆器技法の日本における呼称。存清とも書く。室町時代の中国美術鑑賞、書院の座敷飾りに関する秘伝書である『君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)』の中国彫漆器を記したうちに、「存星と云(い)ふものあり赤も黒もあり剔金(てききん)の様(よう)に彫りたるものなり稀也(まれなり)」とあり、わが国で遅くとも16世紀初めには舶来品として尊重され、茶器に用いられていたことがわかるが、存星の呼称の出自は不明である。この技法は、漆塗りの面に色漆で文様を描き、文様の輪郭線に沿ってやや太く、文様の上は細く、刀で線彫りを施すものであるが、現在の中国には残されていない。わが国では江戸末期に高松藩の玉楮象谷(たまかじぞうこく)がこの技法を模した象谷塗を開発し、香川漆器がその伝統を受け継いで、盆、菓子鉢、茶道具、花いけ、座卓などを産している。
[郷家忠臣]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…明代に盛行したもう一つの技法に塡漆がある。日本では一般に存星(ぞんせい)といわれている。器面全体に比較的厚めに漆を塗り,文様を刀で彫り,そこに彩漆をうめて研ぎ出したもので,製作年代が宣徳期ないしはそれ以前といえる作品は5点にすぎない。…
※「存星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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