学生自治(読み)がくせいじち

大学事典 「学生自治」の解説

学生自治
がくせいじち

大学と学生自治]

大学の起源を12世紀のボローニャ大学(イタリア)における学生自身による大学設立・運営に求める時,学生自治は大学の本質に関わる問題である。無論,M.トロウのいうユニバーサル段階に突入した現代社会における大学の存在意義を,そのルーツに照らして安易に論じることは避けるべきであるが,「主体的学び」が大学の本質として語られ続けていることを考慮すると,学生自治の現代的ありようを整理・考察することは極めて重要な課題である。そもそも,学生の自発的な真理探究欲求があらゆる外圧から独立して達成されることが学生自治の根源にあるとすれば,学生自治は時代や国を越えて保証されるべきとも考えられる。

[学生自治と学生運動

近代ドイツの学生自治運動などはその理念に沿ったものといえるが,日本においては,学生自治といえば1960年代に活発化した学生運動を思い起こしやすい。戦後の新制大学制度が民主化の動きと連動して確立したという歴史的経緯は,必然的に安保闘争や社会変革運動との連帯という性格を学生自治に付与することになるが,1948年(昭和23)設立の全学連(全日本学生自治会総連合)も,当初は学費値上げ反対など本来の学生自治の範疇を活動内容の中心としていた。しかし,社会問題への学生の積極的関わりが学生運動という形で展開され始めると,多くの大学で大学自治会がその中心的役割を担っていくことになる。とはいえ,本来の学生自治の範囲を超えることも少なくない状況の中,いわゆる大学紛争に発展して大学の機能停止に陥ったり,少なからぬ暴力事件を起こして社会批判にさらされたりした。その結果,学生運動自体はやがて社会的支持を得られにくくなり,文部省事態深刻化を打開するため,学生自治会の活動に対し法整備や公権力を使って一定の歯止めをかける大学改革を進める事態に発展する。やがて,多くの大学では学生自治会がなくなったり,活動内容を大幅に縮小したりした。

[今日の学生自治]

そうした変遷を経て,1980年代以降,学生自治会は課外活動を主たる対象として再編が図られるケースが目立ってくるが,やがて課外活動への学生の関心も低下する中で,学生自治の意義が問い直される状況となっている。その一方で,1990年代に入ると,学生の意見を積極的に大学運営に取り入れようとする風潮が高まり,学生の意見を集約するための学生自治会の存在が見直されている面もある。2000年(平成12)に文部省が発表した,いわゆる「廣中レポート」(「大学における学生生活の充実方策について」)は,今後の大学像を「学生中心の大学」とし,正課教育にまで踏み込む形での学生の声の吸い上げを重視しているものの,これを拠り所とし,これに呼応するような学生自治会の再評価・再興に進んだ例は少ない。むしろ,たとえば岡山大学に典型的にみられるように,大学コミュニティとしての一体感を意識し,学生と教職員との協働を目指す取組みが新たに登場して,学生自治とはやや異質な方向性が目立ってきている。

[学生自治の組織形態

今日残っている学生自治会組織は,一般的に年1回程度,代議員を集めて開催される学生大会を最高議決機関とし,規定に則って中心執行機関,各種委員会などが学生大会で承認された計画にしたがい活動する,民主的運営がなされていることが多い。ただし,学生全員が構成員という建前とは裏腹に,活動に無関心な学生が多く,学生の総意が実現しているとは言いにくいのが実情である。学生自治の必要性自体に疑問を持つ学生も少なくない。比較的関心がもたれやすいのは大学祭(学園祭)であるが,それを学生自治とは切り離している大学もあり,学生自治会組織の現状は多様である。

[今後の学生自治のあり方]

指示待ち症候群と揶揄され,受け身の姿勢の学生が目立つ現代の大学において,社会的諸矛盾の解決に向けての変革を精神的にリードすることはおろか,自らがエンジョイするイベントでさえ主体的に参画することに消極的な学生層に,学生自治の重要性を説くだけでは効果は期待できないが,彼らもそうした活動に対する潜在的熱意・潜在能力を持っていないわけではない。21世紀型市民社会を確実につくり出すためには,そのトレーニングの場として大学の果たすべき役割は大きい。学生自治という考え方に固執するのではなく,どうしたらその潜在的な部分を開花できるかをあらゆる角度から検討し直すこと,いうなれば「ポスト学生自治」にあたる新たな発想が必要であろう。
著者: 橋本勝

参考文献: 寺﨑昌男『日本における大学自治制度の成立』評論社,1979.

参考文献: 草原克豪『日本の大学制度―歴史と展望』弘文堂,2008.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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