改訂新版 世界大百科事典 「宗教史学派」の意味・わかりやすい解説
宗教史学派 (しゅうきょうしがくは)
religionsgeschichtliche Schule
1880年代の終りに,古代キリスト教を宗教史的方法によって解明しようとしてドイツの一群のプロテスタント神学者が始めた学問的運動とそのサークル。代表者は年長順に,アイヒホルンA.Eichhorn,ウレーデW.Wrede,ライツェンシュタインR.Reitzenstein,グンケル,ブセット(ブーセ)W.Bousset,トレルチなど。彼らは宗教への内的共感から宗教の生きた発展の姿をとらえようとする宗教史的方法をとくに原始キリスト教に適用し,その祭儀や思想の奥にある霊的・内的敬虔としての宗教性が周辺の世界の宗教に連なることを文献学的に究明しようとした。それによって原始キリスト教はヘレニズム宗教史に位置づけられ,その構成要素の起源は東方にまでさかのぼって求められた(ライツェンシュタイン,ブセット)。グンケルは聖書文献の成立史を文学的・類型的に研究する方法を開発した。またトレルチは宗教史的方法の学問的基礎づけに努力した。この学派が提起した,イエスとパウロとの関係,原始キリスト教の起源(ヘレニズム起源かユダヤ起源か),キリスト教の絶対性などの問題は,キリスト教神学の根幹にふれる重大な問題として大きな議論を呼び,教会史家K.ホルや弁証法神学者K.バルトなどの激しい批判を招いた。その全盛期は1920年代で終わったが,ブルトマンらの次代の新約学者に大きな影響を与えた。グノーシスを含む広範な実証的・宗教史的研究の成果とともに,その根本的な問題提起は今日もなお意義を失っていない。
執筆者:水垣 渉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報