日本大百科全書(ニッポニカ) 「トレルチ」の意味・わかりやすい解説
トレルチ
とれるち
Ernst Troeltsch
(1865―1923)
ドイツの神学者、哲学者、精神史家。ハイデルベルク大学、ベルリン大学などの教授。彼の広範な活動を一貫する課題は、キリスト教的理念の自明性崩壊に伴う価値のアナーキーに直面して、新しい価値秩序をいかに確立するかということであった。アナーキーは自然主義よりも歴史主義に由来しており、問題は歴史と信仰、キリスト教の絶対性ということになる。宗教を考察するには、厳正な批判的、歴史学的手続と倫理学的自覚の双方が要求される。ここに素朴な絶対性主張にかわって、キリスト教と西洋文化の一体性を踏まえての文化総合の妥当性の立場が、人格的、内面的決断を前提として提唱される。彼は歴史主義の哲学者ともよばれたが、歴史主義的懐疑、相対主義の克服も、この文化総合によるのである。精神史家としては、マックス・ウェーバーの影響が大きい。彼の誠実な思索は今日もなお学ぶところが非常に多い。おもな著書は『歴史主義とその諸問題』(1922)、『歴史主義とその克服』(1924)など。
[常葉謙二 2018年1月19日]
『近藤勝彦他訳『トレルチ著作集』全10巻(1980〜1988・ヨルダン社)』▽『大坪重明訳『歴史主義とその克服』(1956・理想社)』▽『熊野義孝著『トレルチ』(1973・日本基督教団出版局)』