日本大百科全書(ニッポニカ) 「家畜市場」の意味・わかりやすい解説
家畜市場
かちくしじょう
家畜市場は1910年(明治43)の家畜市場法制定によって法的存在が明らかとなり、その後の家畜取引の近代化に伴い、数次の改正を経て、1956年(昭和31)に家畜取引法(昭和31年法律第123号)が制定され、家畜市場の体系が明確になった。同法によると、家畜(ウシ、ウマ、ブタ、メンヨウ、ヤギ)取引のために開設される市場であって、つなぎ場および売場を設けて定期的または継続して開場されるものと規定されている。家畜市場は、都道府県知事への登録制になっており、開設者には、
(1)取引開始前には、家畜の年齢、性別、血統、能力、経歴を証明する書類の有無、疾病、体重の公表
(2)開場日における毎日の取引頭数・価格を翌日まで場内で開示
(3)家畜の売買はせり売りまたは入札、代金決済は開設者を経ること、また談合の禁止
などの規制があり、公正な取引と適正な価格形成の実現を目ざしたものとなっている。
家畜市場はその地域性から3形態に区分できる。まず、家畜が生産される地域内で取引されるために設けられる市場として、地域(産地)家畜市場がある。ここでは主として子牛などの子畜の取引が行われる。開設日数や出荷頭数が少なく、小規模な家畜市場が多い。次に、家畜取引のために家畜商や農業協同組合系統の集荷仕分け拠点市場としての集散地市場がある。ここでは、子畜や成畜の生産地域に設置されるものが多く、その規模は大きい。また、家畜共進会(品評会)などのために開催される臨時市場がある。
家畜市場はさらに、取引される家畜の種類別に、牛市場、豚市場、馬市場などと区分される。現在、おもに家畜市場で取引される家畜は肉用子牛がもっとも多く、次いでホルスタイン種の雄子牛(ぬれ子)、肥育牛、乳用老廃牛、初乳牛など、牛取引が中心である。また、過去には豚取引市場も全国に多数存在していたが、豚飼養形態が繁殖から肥育までを行う一貫経営形態に変化したこともあって、子豚取引などの家畜市場は姿を消しつつある。さらに、馬市場も北海道を中心に存在しており、肉用馬や競走馬が取引されている。
これまで、家畜市場は自然発生的に形成されてきたこともあって、少頭数による取引市場が多数存在していた。地域(産地)家畜市場では、一般に取引規模の小さいものが多く、購買者の数も少なく、零細で局地的な取引形態となりやすくなっている。その結果、開設者は入場料や手数料を高額にしたり、購買者は家畜購入のために数多くの市場で取引せざるをえないなど、出荷者や購買者の売買意欲の減退を招いている。1961年の1477市場をピークとして、その後は1980年に481、1990年(平成2)355、2012年(平成24)末149市場(休場市場を含む)と、家畜市場の統廃合が進んでいる。家畜市場を地域別にみると、北海道14市場、東北25、関東21、北陸6、東海7、近畿8、中・四国18、九州・沖縄50である。こうした家畜市場の多くが、生産者団体によって開設されている。
[早川 治]
『農林法規研究委員会編『農林法規解説全集・畜産編』(1969・大成出版社)』▽『宮崎宏編『国際化と日本畜産の進路』(1993・家の光協会)』▽『日本農業市場学会編『農業市場の国際的展開』(1997・筑波書房)』▽『滝沢昭義・細川允史編『講座 今日の食料・農業市場3 流通再編と食料・農産物市場』(2000・筑波書房)』▽『三國英實・来間泰男編『講座 今日の食料・農業市場4 日本農業の再編と市場問題』(2001・筑波書房)』▽『食料・農業政策研究センター編『食料白書――畜産物の需給動向と畜産業の課題』(2001・農山漁村文化協会)』▽『新山陽子著『牛肉のフードシステム』(2001・日本経済評論社)』