日本大百科全書(ニッポニカ) 「家畜商」の意味・わかりやすい解説
家畜商
かちくしょう
日本では家畜(ウシ、ウマ、ブタ、メンヨウ、ヤギ)の売買を仲介する業者として、古くから家畜商が存在していたが、ここでいう家畜商とは、家畜商法(昭和24年法律第208号)に基づき、都道府県知事の免許を受けて家畜の取引(売買)、もしくは交換または斡旋(あっせん)などの営利を目的として、専門的に営む個人および法人をいう。ただし、非営利法人である農業協同組合などの職員による家畜取引、家畜生産者の営利を目的としない継続および反復性のない単なる家畜取引などは家畜商法の適用を受けないものと解されているから、これらの法人および個人については家畜商とはよばない。また、現行家畜商法は家畜取引の公正を確保することを目的としており、家畜商の信用を補完し、家畜取引相手の保護を図りながら、家畜取引に関する情報を備え、家畜取引の公正化、明朗化を図ることなどを定めている。家畜商の資格要件は、(1)家畜商講習会の課程を修了したもの、(2)上記修了者を使用人その他の従業者として置くもの(法人)であるが、成年被後見人または被保佐人、禁錮以上の刑に処せられた者などの欠格要件があれば免許を取得することができない。
2011年(平成23)末の家畜商登録者数は4万6469人である。この1年間の登録者の増減をみると、登録削除者419名、新規登録者271名である。とくに北海道、九州地区で廃業による登録削除者が多くみられ、新規登録者は北海道、茨城県で増加傾向にある。
家畜商は牛商、馬商、豚商などに区分できるが、最近では圧倒的に牛商が多い。家畜商には、家畜取引を専業とする者と他の業務と兼務する者がある。もともと家畜商は、農業を営む者、食肉卸売業者、食肉小売業者、家畜運搬業者、人工授精師、獣医師などが免許を取得して兼務する者が多かった。1955年(昭和30)ごろにはすでに畜産経営と兼務する個人家畜商が80%以上を占めており、今日では、圧倒的に多くの家畜商が肥育経営を兼務している。一方、専業家畜商には、堆肥(たいひ)の売買を通じて家畜商業務を行う者がみられるが、その割合はきわめて小さい。
家畜流通においての生体取引を原則としていた時代(1960年代後半)には、産地家畜商が生産者から購入した子牛や成牛を消費地に出荷して食肉問屋と対応する取引を行ってきた。その後、産地から消費地への流通が枝肉・部分肉流通に移行し、また、産地に食肉センターなどの近代的な食肉処理加工施設の建設が進み、食肉加工会社や、農業協同組合組織を通して出荷する系統出荷割合が増大するとともに家畜商も家畜集荷人あるいは手数料商人に変わりつつある。このように家畜商の機能は家畜流通の変化に伴って集・出荷機能から変化し、公正な家畜取引を実現するための資格要件上の役割になっている。
[早川 治]
その後の動き
2019年(令和1)に「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和1年法律第37号)が成立し、成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する規定等(欠格条項)を設けている各制度が見直された。家畜商法も改正され、欠格条項から「成年被後見人、被保佐人」が削除され、「心身の故障により家畜の取引の業務を適正に行うことができない者として農林水産省令で定める者(精神の機能の障害により家畜の取引の業務を適正に行うにあたって必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができない者)」という個別審査規定が設置された。
2020年末時点の家畜商登録者数は4万3762名で、2020年中における新免許取得者は272名、登録削除者は584名である(日本家畜商協会調べ)。
[編集部 2022年4月19日]