改訂新版 世界大百科事典 「寝たきり老人」の意味・わかりやすい解説
寝たきり老人 (ねたきりろうじん)
現代社会における平均余命の延びと医学の進歩は,健康な老人たちばかりではなく病弱・虚弱な老人たちをも含めた老人人口の増大をもたらしている。寝たきり老人の問題は,老人人口の増大とともに社会問題の一つとして大きくとりあげられてきた。社会問題としての老人問題は,老人世代の問題であると同時に,中年世代や若者世代にとっても大きな問題であるという側面をもっている。寝たきり老人の問題にしても,老人が寝たきりの状態になることから生じる老人自身の生活問題であるよりも,寝たきりの老人を介護する側に生ずる生活問題としてとりあげられてきた。介護者たちの多くは,老人の介護を続けるうちに,社会的に孤立していく傾向がある。老人の介護をするために仕事をやめたり,介護を続けることで身体をこわしたりする介護者も多く,自分の時間をもてない,子どもの世話が十分にできないなどの悩みもかかえている。このような介護者の生活問題が,寝たきり老人を社会問題として注目させた一つの理由である。寝たきり老人の定義として,とくに定まったものはない。広義に定義したものとしては,〈病気(老衰を含む),けがなどで日常生活をほとんど寝ている状態で過ごしている老人〉というものがあり,狭義にとらえれば〈65歳以上の老人で常時臥床の状態またはこれに準ずる状態にあって,その状態が6ヵ月以上継続し,なお継続すると認められるもの〉などとなる。どのような定義をとるにせよ,そこで問題となる寝たきり老人は入院治療を必要としないが,自宅で寝ていることが多い老人たちである。このような老人を介護している家族の多くは,老人からみると妻や嫁や娘という続柄の女性たちである。老人人口に占める女性の比率の高さと介護者の多くが女性であることによって,寝たきり老人の問題が注目されて以来,老人問題はすぐれて女性問題であるという見解が定着した。
→老人福祉
執筆者:岡本 多喜子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報