老人福祉(読み)ろうじんふくし(その他表記)welfare of aging

日本大百科全書(ニッポニカ) 「老人福祉」の意味・わかりやすい解説

老人福祉
ろうじんふくし
welfare of aging

生活のなかで適切な判断を行うなど自立的に生きるための能力が低下してきた老人を対象とした福祉で、ニーズ(需要、要求)に対応する人的・物的サービスの総称である。具体的には年金、社会保険、公的扶助などによる社会保障や就労保障まで、老人の生活を保障するためのサービス全般をいう。1963年(昭和38)に老人福祉法が老人を対象とする福祉の基本法として制定された。その背景には、第二次世界大戦後の産業構造の変化およびそれに随伴する都市化、核家族化などの社会変動によって、一方では家族や近隣を中心とした私的共同体の扶養能力が急速に低下し、他方では老人をめぐる社会環境それ自体が悪化し、老人問題が全社会的規模において発生、顕在化してきたという事実が存在する。

[那須宗一・吉川武彦]

老人福祉法

このような背景をもととして制定された老人福祉法は「老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もつて老人の福祉を図ることを目的」(1条)としており、基本的理念(2条・3条)を明らかにし、および老人福祉増進の責務(4条)に関する規定によって具体化している。さらに老人福祉の具体化としての行政的な仕組みを明らかにしている。その内容はこの法律がすべての老人に共通する一般的ハンディキャップに対応するサービスと、一部の老人に特殊に発生するハンディキャップに対応するサービスとから構成されていることからもわかろう。

 前者に相当するものとしては、健康診査、老人医療費の支給、老人福祉の増進のための事業があり、後者に相当するものとしては、老人ホームへの収容など、ならびに老人家庭奉仕員派遣事業がある。このうち健康診査、医療費支給は、老人保健法(昭和57年法律第80号)の成立により、1983年2月からは同法に基づいて実施されている。

 したがって、この二つのサービスを除いて、老人福祉法に規定されているサービスの給付内容についてみてみると、まず一般的サービスとしての老人福祉の増進のための事業は、地方公共団体による教養講座、レクリエーションなどの実施と、老人クラブなどへの援助が柱となっている。これらの事業実施の中心的施設となるのは老人福祉センターである。これは、無料または低額な料金で、老人に対して、各種の相談に応ずるとともに、健康の増進、教養の向上およびレクリエーションのための便宜を総合的に供与することを目的とする施設である。このほか老人福祉法に基づく一般的サービスとしては、老人の社会的活動に関する訓示的規定を具体化した事業として、老人就労斡旋(あっせん)事業、高齢者能力活用推進事業、生きがいと創造の事業(陶芸、園芸、木工などの生産活動に対する助成)などがある。

 特殊なハンディキャップに対応するサービスについていえば、まず老人ホームへの収容などは、おおむね65歳以上の、居宅において養護を受けることが困難な老人に適用され、措置の形態は以下のとおりである。すなわち、比較的健康な低所得老人の養護老人ホームへの収容の措置、寝たきり、もしくはそれに近い老人の特別養護老人ホームへの収容の措置などである。訪問介護事業は、身体的・精神的障害のため日常生活を営むのに支障がある老人の家庭にホームヘルパーを派遣して、その日常生活上の世話を行う事業であり、おおむね65歳以上の低所得層を対象としている。老人福祉法に基づく特殊的サービスとしては、このほか、在宅要援護老人を対象とした日常生活用具給付等事業、入所生活介護(ショートステイ)事業、日帰り介護(デイ・サービス)事業などがある。デイ・サービス事業は、在宅の虚弱老人などをデイ・サービスセンターに送迎し、入浴、給食、日常動作訓練などのサービスを提供するとともに、デイ・サービスセンターを拠点として寝たきり老人などの居室まで訪問して、入浴、給食などのサービスを提供するものである。デイ・サービスは、1998年(平成10)より民間事業者に市町村が委託することが認められた。また、在宅介護支援センターは、夜間等の緊急の相談に対応できるよう運営することになっている。

 老人福祉施設には養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人福祉センターほかデイ・サービスセンター、在宅介護支援センター、ショートステイ施設などがある。また、これらの施設の機能を補完するものとして、有料老人ホーム、老人憩いの家、老人休養ホームなどがある。

[那須宗一・吉川武彦]

老人保健医療(老人保健法と介護保険法)

ところで、1983年(昭和58)から施行された老人保健法は、老人の心身の状況に応じた予防、治療、機能訓練などの一貫性のあるサービスを提供することを目的としていた。予防に関する保健事業としては老人手帳交付、健康教育、健康相談、健康診査が、治療に関するものとしては医療が、機能訓練に関するものとしては機能回復訓練、在宅看護に関しては訪問指導があり、いずれも既存の事業の整備統合である。医療は70歳以上の者および65歳以上70歳未満の寝たきり老人などを対象とし、そのほかの保健事業は、職域などにおいてこれらの事業に相当する事業の対象となる場合を除く40歳以上の者を対象としていた。老人保健法による医療は、老人福祉法による医療費支給制度、すなわち老人が医療保険で受療した場合の自己負担相当額を公費で肩代りする制度を受け継いだものであるが、自己負担相当額の一部再有料化、および各種医療保険の医療費負担率の再配分を行うという制度的変更が加えられていった。

 老人保健法による啓発、教育、相談、診査、リハビリテーション訪問看護の一貫した意義を認めることはできるが、老人の疾病構造の特性や老人を取り巻く環境の急激な変化に着目するならば、なお多くの問題があった。老人性疾患の多くは慢性的に経過するものであり、また合併症を伴いがちである。このため長期にわたる介護と看護を必要とする。しかし、それらの実質、すなわち日常的継続性における介護と看護それ自体、およびそれらにかかる費用は老人保健法でもやはりカバーされない領域として残っており、他方、これらの問題への対処は、老人福祉法においても多くは所得制限によって適用範囲はきわめて限定されているのである。老人の保健・医療・福祉の統合化を図るのならば、既存の事業を制度的に整備するにとどまるのでなく、実質において年金・課税などの老人の所得保障との総合的対処を図るものでなければならない。介護保険制度が新設され、2000年(平成12)から施行となったのは、このような背景があってのことである。

 いずれにしても、老人福祉サービスは、老人の生活保障の諸対策が体系的に構築されることによって、初めてその機能を十分に果たすことができる。

 1986年(昭和61)「長寿社会対策大綱」が閣議決定され、1988年「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え」が厚生省と労働省(ともに現厚生労働省)から示された。さらに1989年(平成1)「高齢者保健福祉推進10か年戦略(ゴールドプラン)」が策定され、厚生省、大蔵省(現財務省)、自治省(現総務省)によって合意された。計画の基本は老人の在宅生活を支援することで、2000年(平成12)までに在宅福祉サービスを充実し、寝たきり老人を減らすことを目ざして、1990年から実施された。しかしながらゴールドプランを上回る高齢者にかかわる基盤整備の必要性が明らかになったところから、ゴールドプランが見直され、1994年12月に「新ゴールドプラン」が策定された。

 また、1993年には少子・高齢化社会に対応した社会保障や主要施策、財源などを検討する高齢社会福祉ビジョン懇談会が設けられ、1994年に「21世紀福祉ビジョン-少子・高齢社会にむけて」がまとめられた。さらに厚生省では1994年に高齢者介護・自立支援システム研究を開始し、同年末に「新たな高齢者介護システム構築を目指して」と題する報告をまとめた。これらを受けて1995年2月から老人保健福祉審議会が検討を開始し、1996年4月に「高齢者介護保険制度の創設について」を厚生大臣に答申した。これが契機となり、高齢者介護保険制度について活発な議論が起こり、1997年12月には介護保険法が成立した。

 老人福祉は老人保健医療と緊密な関係になければならない。1990年(平成2)6月の老人福祉法および老人保健法改正はその意味でも重要で、法改正により都道府県および市区町村は「老人保健福祉計画」を策定する義務を負うことになった。老人保健法の老人保健医療は7本柱で、なかの1本は医療であるが、先に触れたように他の6本は保健事業で、(1)啓発活動、(2)健康教育、(3)健康相談、(4)健康診査、(5)リハビリテーション(機能訓練)、(6)訪問指導である。1986年の老人保健法改正によって、老人保健施設が置かれ、要介護老人に対して医療ケアおよび生活サービスの提供が開始された。さらに1991年以来、在宅介護体制づくりの強化を目ざして「訪問看護ステーション」制度が敷かれた。1994年には、入院時の食事にかかわる給付の見直し等、老人保健事業の体系の見直しが行われたほか、1996年には研修事業の拡大が図られ、地域リハビリ・コーディネータ養成研修が追加された。この関連で、(1)40歳からの健康週間、(2)健康マップ作成、(3)先進モデル事業助成などが、積極的に進められた。

 この「老人保健法」も2006年(平成18)6月に公布された健康保険法等の一部を改正する法律により「高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)」に改題され、内容も大幅に改正された(2008年4月1日施行)。後期高齢者医療制度の発足に伴うものである(後期高齢者という名称に問題はあるが)。高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な仕組みづくりとしてはやむを得ないものであっても、老人保健法が担ってきた保健にかかる仕組みの後退が懸念されるところである。

[那須宗一・吉川武彦]

超高齢社会における老人福祉

さて、1995年(平成7)には高齢社会対策基本法が制定され、高齢になっても社会活動に参加でき、社会の構成員として尊重され、健やかで充実した生活が営めることを社会づくりの基本理念とした。先に触れた「新ゴールドプラン」が1999年度で終了することから、1999年11月に高齢者福祉に関する新たなプランを策定する方針が決定され、同年12月には「今後5か年間の高齢者保健福祉施策の方向」を策定し、「ゴールドプラン21」として2000年度から実施した。この「ゴールドプラン21」は介護基盤の整備を「住民にもっとも身近な地域」で行うことを重視しながら「介護予防」と「生活支援」を車の両輪とする高齢者福祉の推進を図ることとしていた。

 具体的には、まず「介護サービス基盤の整備」をうたい「認知症高齢者支援対策の推進」および「元気高齢者づくり対策の推進」をすることを明らかにしたうえで「地域生活支援体制の整備」を進め「信頼できる介護サービスの育成」を図りながら「高齢者の保健福祉を支える社会基盤の確立の適切な実施」を行うとした。さらにこれらの事業を積極的に進める地方公共団体を支援することなどが示されていた。この「ゴールドプラン21」は計画通り2004年に終了した。

 日本も高齢化が世界最高の水準に達し、いわば超高齢社会となることが予想されることから、老人福祉のさらなる充実が求められている。日本の老人福祉の基本的方向は、これまでもそうであったようにこれからも「健康で生きがいをもち、安心して生活ができる明るい活力に満ちた長寿社会」の構築にあるといっていいであろう。そのためにも高齢者保健福祉サービスはさらに整備充実が図られなければならないとともに、その総合化が求められるところである。その実現のために現在行われている高齢者保健福祉分野におけるサービスを概括すると以下のようになる。

 身体機能が低下した高齢者も可能な限り地域社会で家族や隣人と暮らせるように「居宅福祉サービス」の充実が図られている。その一つが先に触れた「訪問介護(ホームヘルプサービス)」事業である。要介護高齢者を訪問介護員(ホームヘルパー)が自宅を訪問して身体清拭(せいしき)、洗髪、入浴介助などの身体介護サービスや調理や衣類の洗濯や掃除などの家事援助サービスを行うほか、これらに付随する相談や助言を行うことで高齢者の日常生活支援を行うものである。このサービスは一部地域ではかなり早くから行われてきたが、1982年度(昭和57)から低所得者層に対して制度化され、1989年度(平成1)にほぼ現行のものになった。なお2000年度からは介護保険法に規定される居宅サービスの一つとして位置づけられている。

 こうした居宅福祉サービスには「短期入所生活介護(ショートステイ)」や「通所介護(デイ・サービス)」などがあり、身体機能が低下した高齢者も地域社会で家族とともに暮らすことを支えている。このほか「シルバーハウジング」はライフサポートアドバイザーが必要に応じて一時的家事援助を行うなどする事業であり、過疎地向けには「生活支援ハウス」制度もある。「在宅介護支援センター運営事業」は在宅の要介護高齢者などに対して、ソーシャルワーカーや看護師などの専門性の高いものが在宅生活支援のために相談に応じたり、高齢者保健福祉サービスを円滑に受けられるよう市町村との連絡や調整を行うものである。1998年度から実施されてきたが、2006年度の介護保険制度改正に伴い、地域における包括的ケア体制の中核として設けられることとなった地域包括支援センターにおいて行うこととされた。

 また75歳以上の高齢者の増加が見込まれるところから認知症の急増は避けられない情勢にある。このため「認知症高齢者支援対策」が着々と図られている。2002年の調査推計では「何らかの介護・支援を要する認知症高齢者」は2015年までに100万人増えて250万人になることが見込まれ、さらに2025年には323万人になると推計されている。なお、2004年12月からはこれまでの「痴呆(ちほう)」を「認知症」と用語変更し、2005年6月からは法令上の用語もすべて「認知症」を用いることとなった。現在行われている認知症関連施策は「相談体制の整備」や「居宅対策」のほか「施設対策」が図られているところであるが、その一方で「調査・研究」の充実および認知症理解を深める「地域づくりキャンペーン」が行われている。また認知症に関する「研修」の充実の一環として「認知症サポート医」の養成を行っているなど認知症対策の総合的な推進が図られ、2006年度からは従来からの認知症関連の事業を再編したほか、2007年度からは「認知症地域支援体制構築等支援事業」を開始し、2008年度から「認知症ケア高度化推進事業」を開始している。

[吉川武彦]

『総務庁編『高齢者対策の現状と課題』(1986・大蔵省印刷局)』『基礎からの社会福祉編集委員会編『老人福祉論』(2007・ミネルヴァ書房)』『新版・社会福祉学習双書編集委員会編『老人福祉論――高齢者に対する支援と介護保険制度』(2009・全国社会福祉協議会)』『久塚純一・石塚優・原清一編『高齢者福祉を問う――現場・行政・研究の立場から』(2009・早稲田大学出版部)』『福田志津枝・古橋エツ子編著『これからの高齢者福祉』改訂版(2009・ミネルヴァ書房)』『村川浩一・坪山孝・黒田研二・松井奈美編著『高齢者福祉・支援論』(2009・第一法規出版)』『厚生統計協会編・刊『図説国民衛生の動向』『国民の福祉の動向』各年版』『老人福祉関係法令研究会編『老人福祉関係法令通知集』各年版(第一法規出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「老人福祉」の意味・わかりやすい解説

老人福祉 (ろうじんふくし)
welfare for the aged

社会問題の一つである老人問題に対処するための社会福祉施策をいう。日本では1963年に制定・施行された老人福祉法が,その法的な基礎となっている。この法はすべての老人を対象に,その福祉を図ることを目的としている。老人福祉をより広義にとらえる場合は,社会福祉以外の社会保障分野のうち年金保険,医療保険,公的扶助などで老人に関係する部分を含める。社会福祉を,国家による生存権保障の概念が確立されたことによって生じた歴史的な産物としてとらえ,そのうえで老人福祉の成立を考えると,老人福祉はきわめて今日的なことがらであることがわかる。老人はいつの時代でも存在していた。人間は高齢になると一般に心身の機能が低下し,疾病にかかる率も高くなる。そのために労働能力も減少する。これら生物学的な老化により,身体的,精神的さらに経済的に自立した社会生活を営むことが困難になり,他者からの援助を必要とするようになる。老人に対するこれらの援助を,私的扶養といわれる家族,親族,近隣などの範囲で行うことができるうちは,老人問題が社会問題となることはない。老人問題が顕在化する原因としては,(1)老齢人口比率の高まりと老齢人口の増加,(2)産業構造の変化と農林漁業世帯の減少,(3)都市部への人口集中と勤労世帯の増加,(4)都市化,工業化による核家族の増加を中心とする家族形態の変化と家族機能の変化,などをあげることができる。これらに加えて日本においては,第2次大戦後の民法改正にともなう扶養意識の変化,高度経済成長にともなう工業化・都市化の進展と,社会環境・生活様式の急変をあげることができる。さらに欧米諸国に類をみない速さで進んでいる高齢者社会への歩みは,日本の老人問題をより深刻な社会問題としている。

 国際連合は65歳以上人口が全人口の7%を超えた国を老人の国と規定しているが,日本が老人の国に突入したのは1970年で,95年にはすでに65歳以上人口は全人口の14.5%となり,2010年には22%,2040年には31%の割合を示すと予想されている。全人口の3人に1人が65歳以上者となる,高齢社会に対応するために,それに向かって歩みつつある高齢化社会のただ中にいる現在,所得保障をはじめとする医療,就労,住宅,教育,余暇,福祉などの老人問題への対策を早急に実施しなければならない。しかし所得保障を年金保険で行う場合に生じる財源や負担の問題をはじめとして,医療保険制度の赤字問題など,老人問題の多くは老人以外の世代への負担をともなっていることを特徴としている。このことが端的に現れるのが,老人の身体的な扶養の問題であり,とくに寝たきり老人や認知症老人の在宅介護に対する福祉サービスは,老人に対してと同時に介護者への福祉サービスという側面を強くもっている。また老人は医療・保健サービスと密接な係わりを持つため,福祉・保健・医療のネットワークの充実が重視され,1982年に老人保健法が制定されて以降は,老人福祉と老人保健の関係はより密なものとなっている(〈老人保健制度〉の項目参照)。

老人福祉を大別すると,在宅福祉と施設福祉に分けられる。在宅福祉のうち健康な老人を対象とした施策としては,老人の自主的組織である老人クラブへの助成事業,一般の労働市場にはなじまないが就労を希望する高齢者のためのシルバー人材センターや高齢者事業団などの活動,老人が能力に応じた生産または創造的活動に参加するための生きがいと創造の事業などがある。心身の状態が衰え,他者からの援助を必要とする在宅の要援護老人や要介護老人に対しては,家事・介護を提供するホームヘルプ・サービス,老人を介護するために必要な器具を給付する老人日常生活用具給付事業,寝たきり老人や認知症老人を短期間老人ホームや専門施設に預かる短期保護(ショート・ステー)事業,入浴サービス,給食サービス,リハビリテーション・サービスなどを行うデー・サービス事業などがある。老人保健法の訪問看護サービスも在宅での重要なサービスの一つとされている。施設福祉のうち健康な老人のための通所施設としては,老人福祉センター,老人憩の家などがあり,これらの施設は老人の活動拠点として,また余暇活用の場として利用されている。老人ホームとしては養護老人ホーム,軽費老人ホームA型,B型,ケア・ハウスがある。これらの老人ホームは相互に併設されたり,各種の在宅福祉サービスの提供拠点としての役割を担っている。老人保健法の老人保健施設でも入所・通所のサービスが提供されている。要介護老人のための特別養護老人ホームをはじめ,児童の里親制度の老人版ともいえる老人を自宅に引きとって世話をする養護受託制度などがある。また在宅での老人介護サービスの相談やケア・マネージメントを行う24時間対応のサービスとして,老人介護支援センター(一般には在宅介護支援センター)がある。老人福祉施策は多くの都道府県・市区町村で独自の事業を展開しており,長寿者への敬老祝金や寝たきり老人や認知症老人の介護をしている家族への介護手当などを出している自治体もある。

 これまで,日本の老人福祉施策の中心は施設福祉であった。しかし1980年代に入ってからは在宅福祉の充実と有料福祉サービスの発展が叫ばれている。在宅福祉の充実それ自体に問題はないが,老人の私的扶養,とくに要介護老人といわれる寝たきり老人や認知症老人を家族が介護しつづけることを指して在宅福祉とする傾向がみられるところに問題が生じている。家庭機能の低下,女性の就業率の上昇,劣悪な住宅状況などは,相互に関連しつつ要介護老人の家族による介護を困難にしている。これらの現実を十分に認識したうえで在宅福祉を充実する施策にとりくむ必要がある。つまり要介護老人を家族が介護するためには,介護者家族を援助するための多くのサービスを必要とする。またひとり暮しや夫婦で生活する老人のためにも,在宅福祉サービスは必要である。1989年に策定された〈高齢者保健福祉推進十か年戦略〉(ゴールドプラン)やその具体化のために90年に成立した〈老人福祉等の一部を改正する法律〉により全国の市町村および都道府県で策定された老人保健福祉計画,さらにこの計画による数字に合わせる形で94年に修正された〈新ゴールドプラン〉によって,99年までに老人の在宅福祉サービスの充実が予定されている。この在宅福祉サービスの充実に向けての施策のなかで,ホームヘルプ・サービスを中心に,生協や住民相互などの住民参加型の非営利団体による活動や,農協,企業などの福祉分野への参入が進められている。公的介護保険制度の導入の動きのなかで,シルバーサービス分野への企業の参入も増えている。

 老人問題をかかえている欧米諸国の多くは,老人になんらかの援助が必要となった場合には,現在老人が生活している場所を移動することなく援助を与えることを基本としている。そのため主要なサービスはホームヘルパーの派遣である。社会保障制度は国によって異なり,社会福祉のとらえ方も異なるために安易な国際比較を行うことは危険であるが,歴史的にみても欧米諸国は日本以上に住宅政策,保健衛生政策,医療・年金政策などとのかかわりが強く,そのなかで老人問題対策が展開されている点に特徴がある。また高齢者の自己決定サービスの選択性,人権の保護などについての関心が高まりを見せており,老人福祉においても提供されるサービスの評価や利用者重視の考え方が広まりつつある。
社会福祉
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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