改訂新版 世界大百科事典 「尊属卑属」の意味・わかりやすい解説
尊属・卑属 (そんぞくひぞく)
親族関係のうち血族関係についてつけられている区分。配偶者はいずれにも属さず,姻族についてはこの区分はない。尊属とは自分よりも先の世代に属する直系および傍系の血族である。たとえば父母・祖父母などを直系尊属,おじ・おばなどを傍系尊属という。卑属とは自分より後の世代に属する直系および傍系の血族である。たとえば,子・孫などを直系卑属,おい・めいなどを傍系卑属という。兄弟姉妹や従兄弟姉妹(いとこ)などは自分と同世代であるから尊属でも卑属でもない。年齢とは関係がない。
尊属あるいは卑属であることによって民法上は次のような法律効果を生ずる。(1)養子およびその直系卑属と養親またはその直系尊属の間の婚姻禁止(民法736条),(2)尊属を養子とすることの禁止(793条),(3)相続において,直系尊属は子についで第2順位の相続人となる資格が認められていること(889条)。
沿革と問題点
尊属・卑属という概念,用語が法律上のものとして現れたのは明治時代の民法制定のときであった。1890年に公布された旧民法では,直系血族についてのみ用いられたが,98年の民法(民法旧規定)において傍系血族にまで拡張適用されるようになった。いずれも姻族を含まず,血族のみについての区分である点では共通であった。尊属・卑属という発想は,元来,中国の古い親族称呼に由来し,日本近世の封建的家族制度の中で発達し,それが明治時代に作られた民法親族・相続編に引き継がれたものである。現在の法律では,単に先行世代と後続世代とを示す法技術的な意味以上の内容をもたないことになっているが,用語としては身分的上下関係を連想させる語感をもっている点で,法の下の平等を原則とする日本の法制上適切な表現ではない。欧米では単に世代の先後を意味する言葉(ascendant,descendant)を使っており,それも直系の血族のみに限っている。日本民法においても純技術的な用語に改正することが望ましい。
また,従来の刑法200条に規定する尊属殺が,一般殺人と区別し罰則を加重していることについて,憲法,とくに法の下の平等の原則に反するか否かが従来論議されてきた。最高裁判所は,1973年4月4日の判決で,憲法14条1項(法の下の平等)に違反するとの判断を示し,95年の刑法改正で本条は削除された。
→尊属殺人
執筆者:武井 正臣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報