旧民法(読み)キュウミンポウ

デジタル大辞泉 「旧民法」の意味・読み・例文・類語

きゅう‐みんぽう〔キウミンパフ〕【旧民法】

ボアソナードらによって起草され、明治23年(1890)公布されたが施行されなかった民法典。明治31年(1898)に施行された現行民法典に対していう。
民法旧規定のこと。

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精選版 日本国語大辞典 「旧民法」の意味・読み・例文・類語

きゅう‐みんぽうキウミンパフ【旧民法】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 明治二三年(一八九〇)に公布された民法典を、現行民法に対していう。フランス民法基本として、ボアソナードなどが起草したもの。内容が日本の慣行などに適さないという理由で実施はされなかった。
  3. 現行民法中、昭和二二年(一九四七)の改正前の親族および相続に関する諸規定。民法旧規定。

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改訂新版 世界大百科事典 「旧民法」の意味・わかりやすい解説

旧民法 (きゅうみんぽう)

1890年(明治23)に公布された民法の俗称。これは法典論争によって93年1月1日に予定された施行が延期され,96年に公布された民法(総則・物権・債権の3編)と98年に公布された民法(親族・相続の2編)により,その公布とともに廃止された。1890年の民法は,新たに編纂(へんさん)された96年・98年の民法からみて旧民法と呼ばれたわけである。現行民法である1947年の民法は,1898年の民法(親族・相続の2編)を全面的に改正し,これに伴い1896年の民法(総則・物権・債権の3編)も,部分的な,しかし原理的な改正を受けた。したがって,96年・98年の民法は,現行民法と区別する意味で,明治民法と俗称されている。もっとも,現行民法からみて,98年の民法を旧民法と呼ぶこともあるから注意を要する。

 旧民法の編纂事業は,江藤新平によって指導された1870年の民法会議以来の民法編纂事業の流れをくむものであり,80年に元老院内に設置された民法編纂局によって本格的に開始され,条約改正事業との関係で一時外務省の管轄とされたが,最終的には司法省の手によって草案の完成をみた。この草案は,フランス民法典模範とし,財産法(財産編・財産取得編(前半部分)・債権担保編・証拠編)の部分はG.E.ボアソナードが,家族法(人事編・財産取得編(後半部分=相続,贈与および遺贈,夫婦財産契約))の部分は,熊野敏三・磯部四郎・黒田綱彦・光妙寺三郎ら日本人が起草にあたった。家族法の第一草案は,全国の地方長官および司法官に回布されて意見を求められ,それにもとづいて修正された。最終草案は,元老院・枢密院によって審査修正され,財産法の部分は1890年4月21日,家族法の部分は同年10月7日に公布された。

 旧民法の編別構成が,人事編・財産編・財産取得編からなるフランス民法典と異なるのは,ボアソナードの創案によるものであり,内容的にみても,財産法の部分は,フランス民法典施行以後の判例・学説の動き,イタリア民法など他の立法例,さらに日本の実情をも考慮して編纂されている。たとえば,賃借権は債権でなく物権とされているが,これはボアソナードが土地に対する賃借人の資本投下を保護し,日本農業の発展をはかろうとしたものである。この考え方は必ずしもボアソナードの独創ではなく,フランスの学説の流れのなかに見いだされる。また家族法の第一草案は,ボアソナードの影響下に起草されたためか,きわめて進歩的なものであったが,その修正過程において〈家〉制度が強化され,戸主権と長男単独相続(家督相続)が規定された。しかし戸主の財産は戸主個人の財産として〈家〉の直接的拘束から切り離され,法主体性(権利能力),所有権の自由,契約の自由という近代民法の三大原則と抵触しないように工夫されている。旧民法は,法典論争の影響により廃棄されたが,明治民法の起草過程において十分に考慮され,実質的にはかなりの部分がこれにとり入れられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「旧民法」の意味・わかりやすい解説

旧民法
きゅうみんぽう

1890年に公布され、1893年1月1日から施行されることになっていた日本最初の民法典(明治23年法律28号および98号)。フランスの法学者ボアソナードを主任として、主としてフランス民法を範としてつくられた。公布後、日本古来の風俗習慣に反するという反対論がおこり、いわゆる法典論争を生んだが、反対論が勝ち、この民法はついに施行されずに終わった。旧民法は人事、財産、財産取得、債権担保、証拠の5編からなっていた。現行民法は、主としてドイツ民法第一草案に範をとって1898年に施行されたが、旧民法の影響も無視できない。なお、第二次世界大戦後の親族編、相続編の改正後の民法を新民法とよび、これに対して改正前のものを旧民法とよぶこともあるが、この用法は望ましくない。

[高橋康之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「旧民法」の意味・わかりやすい解説

旧民法
きゅうみんぽう

明治 23年法律 28号 (財産編,財産取得編〈非相続〉,債権担保編,証拠編) ,同年法律 98号 (財産取得編〈相続〉,人事編) 。 1890年公布の民法典。明治政府がフランスから招いた G.ボアソナードが中心となって編纂した。 93年に施行されることになっていたが,日本の旧慣を顧慮していないということなどから,その施行につき断行論者と施行延期論者との間に激烈な論争が行われた (→民法典論争 ) 。結局延期派が勝って,92年の帝国議会で,修正のため 96年までその施行が延期されたが,法典調査会によって新たな体系による民法典 (→民法 ) の編纂が進められ,98年に施行されたので,旧民法はついに実施されずに終った。旧民法は全体としてフランス民法に近く,ボアソナードが関与しなかったといわれる親族相続に関する部分も原案は進歩的であったが,法律取調委員会および元老院の審議の過程で保守化されていった。

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百科事典マイペディア 「旧民法」の意味・わかりやすい解説

旧民法【きゅうみんぽう】

(1)1890年公布され,1893年から施行の予定だった民法典。ボアソナードを主任としてフランス民法を範として作られた。公布後,日本の民俗習慣に反するとする反対論を生じ実施に至らなかった(法典論争)。(2)戦後(1947年)親族・相続両編の改正を経た現行民法に対し,改正前のものを旧民法と呼ぶことがあるが,(1)との混同を避けるため,普通は民法旧規定という。→民法

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世界大百科事典(旧版)内の旧民法の言及

【家族制度】より

…この民法は90年に公布,93年から施行されることになった。これがいわゆる旧民法である。ところが,この旧民法の施行延期を主張する強力な意見が,イギリス法系の行政官,法学者,代言人(弁護士)らから出され,フランス法系の司法官,法学者らとの間で激しい論争(いわゆる民法典論争。…

【フランス革命】より

…その主要な成果がナポレオンによって継承されて,直接にヨーロッパ大陸に広められただけではなく,19世紀の自由主義と国民主義の運動や,1848年に至るヨーロッパの諸革命は,フランス革命を継承し完成させようとするものであったといえよう。日本においても,1890年(明治23)に作成された最初の民法草案(旧民法)は,フランス革命の成果を継承したフランス民法典(ナポレオン法典)を模範とするものであったが,それゆえにこの旧民法は施行されずに終わった。しかし,フランス革命の原理は,中江兆民らによって伝えられ,自由民権運動にかなりの影響を及ぼしたのである。…

【ボアソナード】より

…これが日本最初の近代法典である。ついで79年から,私法の基本法をなす民法典の草案起草にかかり(ただし,親族,相続の部分は日本人が起草),10年の歳月をかけて完成し,日本側の手続を経て圧縮され,90年に公布(旧民法典またはボアソナード法典とよばれる)された。この間,前年春から法典論争がおこり,延期派と断行派が激しく争ったすえ,旧民法典は施行延期となった。…

【法典編纂】より

…天皇主権制を基本原則とするこの大日本帝国憲法は,第2次大戦後の国民主権,平和主義,民主主義を基本原則とする日本国憲法の制定(1946公布,翌年施行)によって廃止された。 民法の編纂は,ボアソナードの指導のもとに進められ,フランス民法典の影響をうけたいわゆる〈旧民法〉が90年に公布されたが,93年の施行を前にその実施可否をめぐる〈法典論争〉の結果,施行延期となった。その後,日本人委員のみで構成する法典調査会(1893年内閣に設置)で,ドイツ民法第一草案を斟酌(しんしやく)して修正案が起草,審議され,帝国議会の議を経て,前3編(総則,物権,債権)が96年に,後2編(親族,相続)が98年に公布され,同年全編が施行された。…

【法典論争】より

…この法典論争は,個別に〈商法典論争〉あるいは〈民法典論争〉とも呼ばれるが,論争の焦点が民法典の実施可否に置かれていたこともあって一般に〈民法典論争〉と通称されることもある。1880年以来本格的な編纂が開始された民法は,90年4月にフランス人ボアソナードの起草になる財産法の部分が,同年10月に日本人委員の起草になる身分法の部分が,いずれも元老院・枢密院の審議,修正を経て公布され,ともに93年1月1日から施行されることになった(旧民法)。この間,1881年ドイツ人レースラーを起草者として編纂が開始された商法は,90年4月に全編公布され,翌91年1月1日から施行されることになった(旧商法)。…

【民法】より


[日本の民法典の沿革]
 日本の民法典は,上記のような伝統をもつ西ヨーロッパ諸国の民法をおもなモデルとして作られたものである。民法典編纂事業は,明治維新直後の明治3年(1870)江藤新平が太政官制度局に民法会議を設け,箕作麟祥にフランス民法典の翻訳作業を命じて以来,途中で挫折(後述の旧民法の施行延期)を経ながらも,現行民法典制定に至るまで休むことなく続けられた。このような一貫した編纂作業への原動力が,国民の権利義務を明らかにすることにより,軍備の充実と相まって諸外国に対抗できるような富強な国家を作ろうということと並んで,明治期の国家的目標の一つであった不平等条約(これによって治外法権を認め,関税自主権を奪われていた)の撤廃(欧米にならった司法制度を樹立することによって欧米人の不安をなくして治外法権撤廃への道を開く)にあったことは,一般に認められているところである。…

※「旧民法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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