小屋組み
こやぐみ
屋根を構成するための骨組をいう。ただし陸(ろく)屋根の場合は軸組頂部に架した水平材(梁(はり)、桁(けた)など)を骨組とするので、とくに小屋組みとよぶ部分をつくらないのが普通である。小屋組みは、屋根の自重やこれにかかる積雪、風圧などの荷重を支えて安全に軸組に伝え、かつ軸組の頂部を相互に連結してこれを固める役目をもつ。構成法は大別して和小屋と洋小屋があり、前者は木材、後者は木材のほか鉄骨によっても組み立てられる。
和小屋は、小屋梁の上に適当な間隔に小屋束(づか)を立て、その頂点にそれぞれ母屋(もや)をのせ、母屋を垂木(棰)(たるき)でつなぐ。その上に木舞(こまい)を組むか、または裏板を張り、葺(ふ)き材料を置いて屋根が完成する。棟の直下に位置する束は、とくに真束(しんづか)といい(この名称は洋小屋でも同じ)、この部分の母屋が棟木になる。なお束は相互に貫(ぬき)を用いて緊結し、揺れや移動のおこるのを防ぐ。梁と軸組との結合法には2種ある。柱の頂部を桁で水平につなぎ、その桁で梁の端部を受けるものを京呂(きょうろ)組み、桁を用いず柱の頂点で直接梁を支えるものを折置(おりおき)組みという。もとより前者のほうが構造的に優れ、とくに柱間隔が一定していない場合に適当である。
洋小屋は、陸梁(ろくばり)と2本の合掌(合掌尻(じり)は梁の端部に差し込む)でまず大きい三角形をつくり、これを方杖(ほうづえ)(斜材)と吊り束(つりつか)(垂直材)によって補強するものである。母屋は合掌の上にのり、それから上の構成は和小屋と同じである。梁と軸組との結合法は京呂組みに準じる。
和小屋、洋小屋とも真束を用いるのが普通で、この形式を真束(キングポストking post)小屋組みとよぶが、ときには真束を用いず、その位置から左右に等距離を隔てたところにそれぞれ束を置くことがあり、この形式を対束(ついづか)(クイーンポストqueen post)小屋組みという。この場合は対束の頂部を水平梁でつなぐので、二重梁小屋組みとよばれることもある。対束形式は屋根裏を生活空間に利用するときに好都合であり、とくに洋風建築における腰折屋根やマンサードmansardの小屋組み(いずれも合掌を途中で折り曲げた形の洋小屋になる)に採用される。
和小屋は、束の高さを加減することにより屋根勾配(こうばい)を自由に調整することができ、とくに曲面(反(そ)り、起(むく)り)をつくるのに適し、組立ても容易である。日本建築の優美な屋根の姿態は、この和小屋の利点に負うところが多い。和小屋は、垂木を除いては梁から母屋まですべて水平材と垂直材ばかりで、小屋組みは四辺形の集合として構成される。しかし洋小屋では斜材(合掌、方杖)を使用することにより三角形の集合となり、たとえ対束形式で中央部に四辺形部分が存在しても、周囲はすべて三角形で埋めることができる。このような構成法をトラスtrussというが、ここではいわゆる「三角形不変の原理」が働いて、四辺形の集合よりも変形のおそれの少ない骨組を構成することが可能である。次にトラスすなわち洋小屋では部材には軸方向力(引張り力または圧縮力)が作用すると考えられ、とくに梁は引張り力を受けるが、和小屋では梁に曲げモーメントが働く。木材、鉄骨を問わず同一断面であれば、材料は軸方向力に強く、曲げに弱いので、この点でも洋小屋のほうが有利である。さらに曲げを受ける部材を中間で継ぐことは、とくに木材の場合はほとんど不可能で、もしそれをあえて行う場合は、継手の直下付近でかならずこれを支える部材を配置しなければならず、したがって和小屋では大スパンspan(梁、アーチなどの支点間の距離)の小屋組みをつくることは困難で、通常は梁として用いうる1本の木材の長さによって制約されることになる。木造和小屋ではスパン6メートルが限度で、それ以上15メートル程度までならば木造洋小屋で組めないこともないが、それを超せば鉄骨トラスによらざるをえない。鉄骨は木材に比べ部材断面が小さくてすみ、かつ継手、仕口を剛接することができるので、軽量で大スパンの小屋組みをつくることが可能である。
日本で竪穴(たてあな)住居に用いられ、現在でも古い農家などにみられる小屋組みに扠首(さす)組みがある。これは梁と合掌を組み合わせるもので、一見洋小屋に近いが、方杖や吊り束を使うまでには発展しなかった。扠首組みは伊勢(いせ)神宮正殿ほか古い建築様式をもつ建物にも形式化されて残されている。
[山田幸一]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
小屋組み (こやぐみ)
roof truss
木材や鉄骨のような細長い部材で建物の骨組みを構成する場合,床を構成する床組み,壁を構成する軸組みと並んで屋根を構成する骨組みを小屋組みという。小屋組みの目的は,屋根の形状を作ること,および屋根と天井の自重,屋根面にかかる雪積荷重,風荷重などの力を壁や柱へ伝達することである。
小屋組みを構成する部材は,小屋組みの種類とその規模,屋根の形状などにより異なるが,最低限でも,屋根の最上部にある水平架材である棟木(むなぎ)と軸組みの上部に水平に置かれた軒桁およびこの両者の上に所定のこう配で架け渡され屋根面の荷重を直接受ける垂木が必要となる。この三つの部材だけで構成される小屋組みは垂木小屋組みと呼ばれ(図a),原始時代の住居や未開地の建築でよく用いられているが,棟木を直接,柱または壁で受けなければならず,間取りに制約を与えるので,現代では小規模な建物以外ではあまり用いられない。
一般的に用いられる木造小屋組みは,一般の木造住宅で使われる和風小屋組み,はり間の大きな木造建築で使われる洋風小屋組みが代表的なものである。和風小屋組みは,軒桁の間に松丸太などによる太い小屋ばりを1.8~2.7m間隔で架け渡し,その上に,小屋束(こやづか)と呼ばれる短い柱を約1m間隔で建て,この小屋束の上に,軒桁,棟木と平行に,母屋(もや)と呼ばれる水平部材を架け,この母屋で垂木の中間部分を支えるしくみである(図b)。はり間が大きくなると,中央に近い部分の小屋束の長さが長くなるので,その場合は,小屋束上に小屋ばりと平行に置かれた二重ばりの上にさらに小屋束を建てることになり,小屋ばり自体も1本の部材ではまにあわなくなるので,柱の上で継いだはりを用いる。寄棟や入母屋の屋根を作るには,二つの軒桁が交わる点から,平面的に45度の角度で隅木(すみぎ)と呼ばれる登りばりを設け,これで両方向の母屋の端部を支える。
洋風小屋組みは,構成部材を三角形を形成するように配置し,部材間の接合にボルトや金物を用いて緊結することにより比較的細い部材で強い強度を確保しようとするもので,いわゆるトラス構造の原理を利用した小屋組みである。はり間寸法の大小でいろいろな形式があるが,図cに示す真束(しんづか)小屋組みと呼ばれるものがもっとも代表的なものである。和風小屋組みと基本的に異なるのは,母屋を,合掌と呼ばれる登りばりで受け,その合掌が左右に開かないように小屋ばりで結ぶところである。このため,小屋ばりは引張力だけを負担することになり,比較的細い部材ですむ。母屋の上には,和風小屋組みと同様,垂木を架け渡し,これに屋根材を張ることになるが,図に示す例のように,母屋を細かく配置して垂木を省略することも,屋根材によっては可能である。
鉄骨造小屋組みでは,溶接やボルト締めなどにより部材相互を緊結できるので,トラス構造による大はり間が作りやすく,工場建築などに利用されるほか,プレハブ住宅などでも,この方式が使われている。
執筆者:塚越 功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
小屋組み【こやぐみ】
屋根をささえる骨組構造をいう。屋根形を保持し,かつ屋根荷重を支持する必要がある。組み方には,大別して和洋2法あり,和風小屋組みは桁(けた)の軸組に直角に渡した小屋梁(ばり)上に束(つか)を立て母屋(もや)を並べた仕組み。洋風小屋組みはトラスを組んで荷重をささえる仕組みである。
→関連項目和小屋
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小屋組み
こやぐみ
roof truss
屋根の構造主体となる骨組み。組立方法から和小屋組みと洋小屋組みに大別される。和小屋組みは,小屋梁に屋根勾配に応じた小屋束を載せ,棟木および母屋をかけ渡し,垂木を取付ける形式をいい,切妻屋根,寄棟屋根など梁間の小さい建物に用いられる。洋小屋組みは比較的細い部材を三角形に組んでトラスを構成し,屋根荷重のほか,風荷重にも抵抗し得るものである。キングポストトラス,クイーンポストトラス,フィンクストラスなど多くの形式がある。和小屋組みに比べてかなり大きな梁間の建物まで使用できる。木造小屋組みは和,洋小屋組み両方に用いられるが,鉄骨小屋組みは洋小屋組みが主である。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
こやぐみ【小屋組み】
建物の屋根を支える骨組み。風圧や積載荷重に耐え屋根を形づくる。水平材と垂直材を組み合わせる和小屋、水平材・垂直材・斜材を用いる洋小屋に大別される。◇「小屋」ともいう。
出典 講談社家とインテリアの用語がわかる辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の小屋組みの言及
【社寺建築構造】より
…しかし,江戸時代には[規矩(きく)術]の進歩にともない,はっきり図式解法のできるものに統一され,技法的変化は少なくなった。
[小屋組み]
[小屋組み]とは屋根を支える骨組みのことで,一般には天井で隠された部分をさすが,ここでは組物より上の構造体全部をさすものとする。母屋の前方の柱上の組物と,後方の柱上の組物との間に梁がかけられる。…
【ハンマー・ビーム】より
…中世末期のイギリスの洗練された小屋組みで用いられた片持梁(かたもちばり)。壁の頂部から室内に突出して作られる短い梁で,その先端に立てた束(つか)の上に小屋梁(こやばり)をのせる。…
※「小屋組み」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」