日本大百科全書(ニッポニカ) 「就労不能損害賠償」の意味・わかりやすい解説
就労不能損害賠償
しゅうろうふのうそんがいばいしょう
2011年(平成23)の東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、失業したり収入が減ったりした住民に、東京電力が減収分を賠償する制度。対象は事故発生時に生活の拠点または勤務先が避難指示区域内にあり、勤務先の廃業や長期避難などによって働くことが困難となった人である。賠償するのは、事故発生前の収入との差額のほか、勤務先の移転などに伴う通勤交通費の増額分である。就職・復職が決まっていながら事故発生で就業できなくなった人に対しては、想定された収入分を補填(ほてん)する。原則として、2015年2月末で賠償を打ち切ったが、住民の「個別の事情」に配慮した延長措置がある。また、避難指示の解除で帰還したものの、事故の影響で失業したり収入が減ったりした人への賠償は、帰還後1年間を上限として、2016年2月末までに打ち切る。賠償金は所得とみなされ、課税の対象となる。2015年1月末時点で、東京電力は就労不能損害賠償として総額約2216億円を住民に支払っている。就労不能損害賠償については、住民の自立した暮らしを早期に確立するため、制度をむやみに続けるべきではないとの主張がある一方、福島県弁護士会などは制度の打切りは不当であるとして継続を求めている。
なお、福島第一原発事故に伴う東京電力の損害賠償には、このほかに、生命・身体的損害賠償、個人向けの精神的損害賠償(月10万円)、家賃損害賠償、自主的避難への損害賠償、事業者向けの営業損害賠償、風評被害損害賠償などがある。
[編集部 2015年10月20日]