日本大百科全書(ニッポニカ)「屁」の解説
屁
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肛門(こうもん)から放出された腸内ガスをいう。消化管の中には約200ミリリットルのガスがあり、そのうちの約65%は腸内にたまる。腸内ガスの成分は、おおよそ窒素60%、水素20%、酸素10%、炭酸ガス9%となっており、そのほかに若干のメタンガス、硫化水素などが含まれる。腸内ガスの約70%は口から飲み込まれたもので、20%は血液から拡散してきたものである。また、残りの10%は、腸内にすむ大腸菌・腸球菌・サルモネラ菌などの腸内細菌の作用によって糖質が発酵してできたものなどである。腸内においてタンパク質が腐敗すると、アミノ酸は分解されてインドール、スカトールを生成するが、このとき悪臭のあるガスが発生する。また、肉食をするとメタンガスの量が増すといわれている。腸管の運動が弱いと腸内ガスは長く腸管にとどまることになる。この間に吸収されやすい酸素や炭酸ガスは血管内へと拡散されるが、窒素、硫化水素、メタンガスなどは吸収されにくいため、しだいにガスの濃度が高くなる。腸内ガスは、腸管を刺激し、蠕動(ぜんどう)を盛んにさせる作用があるが、細菌の作用が病的に亢進(こうしん)するとヒスタミンやプトマインなどを生じ、これが腸管を刺激して下痢をおこさせる。このほか、嘔吐(おうと)、発熱、腹痛などの全身的な症状も出現する。また、腸管の運動が弱いと、ガスが腸内にたまって鼓腸をおこし、腹部が膨れてくる。病人の看護の際、ハッカの入った湯で温湿布をすると腸管運動が盛んになって屁が出るようになるが、腸捻転(ねんてん)などの危険もあるため、みだりに行ってはならないとされる。
腸内ガスのうち、屁となって放出されるのは約90%である。屁のおもな成分は、窒素50%、水素30%、炭酸ガス15%で、酸素、硫化水素のほか、悪臭のもととなるメタンガス、インドール、スカトールによって占められるといわれている。食事や腸の状態によって屁の成分や量は変化し、多いときには1日に1リットル以上もの屁が出ることがある。また、高山に登ると気圧が下がるため、腸内ガスの量は増加する。したがって、高山では屁の量も多く、屁を出す回数が増える。腸管の運動が低下したり、腸が閉塞(へいそく)すると屁は出なくなるが、これをX線透視すると半月形の特徴のある影が数多く認められる。開腹手術のあと医師が放屁(ほうひ)を重視するのは、腸の活動が正常に戻ったか否かの判断基準となるためである。
[市河三太]