自由な市場経済のもとで経済運営がなされていると認定された国・地域。英語の頭文字をとってMESと略称する。一般に、(1)価格・生産・資源配分などが市場の需給によって決まっている、(2)外国為替(かわせ)相場が市場原理で決まっている、(3)企業が国際財務報告基準(国際会計基準)で監査されている、などの条件を満たす国・地域を意味する。しかし統一された定義はなく、世界貿易機関(WTO)のほか、アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、日本、オーストラリアなどの先進経済国はそれぞれの基準に応じて市場経済国かどうかを認定しているのが実態である。対語は非市場経済国で、政府による経済統制の強い国・地域を意味する。WTOは加盟国を市場経済国と非市場経済国に区分し、非市場経済国から輸出された不当に安い製品には、不当廉売に対する反ダンピング手続き上、ダンピング防止税(反ダンピング税)や相殺関税などを課すことを認めている。このため世界貿易上、成長する新興経済国・地域が非市場経済国であるのか、市場経済国と認定するのかについては、重要なケースが出てくる。
中国が2001年にWTOに加盟した際の議定書は「中国を非市場経済国として扱える」と規定していたが、同議定書(15年間有効)は2016年12月に失効した。このため中国は自動的に市場経済国へ移行したと主張し、中国製品に反ダンピング税を課さないよう求めている。一方、日本、アメリカ、EUなどは「各国が認定しない限り、中国を市場経済国とは認定しない」と主張し、中国からの輸入品に反ダンピング税を課すことは可能であるとの立場である。とくに中国が過剰生産設備を抱える鉄鋼製品について、日米欧は中国製の鉄鋼製品に対し反ダンピング税などをかけ続けるべきであるとの立場で、中国と日米欧との貿易摩擦の火種になっている。なおオーストラリア、ニュージーランドなどは中国を市場経済国に認定している。
[矢野 武 2018年6月19日]
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