労働協約を尊重し平和関係を乱さない義務。通常は,労働組合と使用者または使用者団体との間に締結された労働協約(以下協約という)の有効期間中において,協約当事者は協約に定められた事項の廃棄・変更を求めて争議行為を行ってはならないという法的義務を指し,これをいわゆる〈相対的平和義務〉という。これに対し,協約に定められているかいないかにかかわらず,協約期間中はあらゆる事項についていっさいの争議行為を行ってはならないという義務をとくに〈絶対的平和義務〉という。平和義務の概念は,20世紀初頭にドイツの労働法学者によって提唱され,ワイマール期にかけて確立するに至るが,産業界の労働協約の例では学説に先んじて同様の義務を規定していたものが多数みられた。日本における平和義務論は,大正末期に学説によってドイツの平和義務論が紹介されて以来今日に至るまで,それを継受するかたちで展開してきている。そのため,いわゆる相対的平和義務は,労働協約に特有の本質的義務であり,協約当事者の特別の合意なくして発生する義務であるが,絶対的平和義務の発生には特別の合意が必要と解するのが一般的である。平和義務違反の争議行為が行われた場合(とくに労働組合側)には,組合や参加組合員は使用者に対して,協約違反・労働契約違反(場合によっては不法行為)に基づく損害賠償義務を負うと解せられる。ただし,最高裁判所は,平和義務違反の争議参加者に対する懲戒解雇処分の効力は否定している(1968年最高裁判所判決)。
執筆者:中嶋 士元也
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