日本大百科全書(ニッポニカ) 「平妖伝」の意味・わかりやすい解説
平妖伝
へいようでん
中国の口語章回(しょうかい)小説の名。八巻、40回。明(みん)末の馮夢龍(ふうぼうりゅう)の作。宋(そう)の仁宗のときに貝(ばい)州(河北省)で起こった反乱を描いたもの。『水滸伝(すいこでん)』と同じく、元代に講談の題材となり、それがまず羅貫中(らかんちゅう)の編作という名のもとに、20回の章回小説『三遂(さんすい)平妖伝』にまとめられ、それを馮夢龍が増訂して内容、構成、文体を統一し、現行の作品にした。基づく史実が宗教的秘密結社による反乱であるところから、首謀者の王則などが用いる妖術がおもしろさの中心となっている。日本でも他の口語小説の輸入と肩を並べて渡来し、曲亭馬琴(ばきん)が愛読して『三遂平妖伝国字評』をつくったのをはじめ、多くの翻訳、梗概(こうがい)訳、紹介がなされている。
[今西凱夫]
『太田辰夫訳『中国古典文学大系36 平妖伝』(1967・平凡社)』