デジタル大辞泉 「蜃気楼」の意味・読み・例文・類語
しんき‐ろう【×蜃気楼】
[補説]書名別項。→蜃気楼
[類語]海市・空中楼閣・逃げ水・浮き島・陽炎・かぎろい
「史記‐天官書」に「海旁気象二楼台一」とある。
物体の見える方向が、大気の屈折により真の方向からずれて見える現象。蜃気楼はその光学的原因により次の三つに分けられる。(1)下方屈折蜃気楼、(2)上方屈折蜃気楼、(3)側方屈折蜃気楼で、これらは、大気の異常屈折によってできる虚像がそれぞれ下方、上方および側方に見える場合を意味している。これらのうちもっとも普通に見られる蜃気楼は(1)である。
(1)下方屈折蜃気楼 地上付近の気温が高く、上空にいくほど気温が低くなっているときに、実際の物体より下に見える蜃気楼。夏の日中、街路上に見られる「逃げ水」もその一つ。逃げ水は、あたかも道路上に水たまりがあるように、自動車などの像がその下方に転倒して見られる現象である。この現象は、地面に対して目の位置を低くしたほうが見えやすい。砂漠などで見られる蜃気楼はこのタイプであり、ナポレオンがエジプト遠征をしたときに従軍したフランスの数学者モンジュが初めてこの現象を記述したので「モンジュの現象」ともいう。
(2)上方屈折蜃気楼 砂漠やアスファルトの路面とは反対に、極地の海面や冷たい雪融(ゆきど)け水などの流れ込む湾のような所は、海面の気温が低く、高度を増すほど気温が上昇している「気温の逆転」という状態が現れる。このような場合の異常屈折は虚像が実像の上方に現れる。これが上方屈折蜃気楼で、この現象を初めて報告したイギリスのビンスS. Vinceの名をとって「ビンスの現象」とよんでいる。(2)の場合は、虚像が実像そのままに浮かび上がって見える場合と、倒立して見える場合とがある。日本でこのタイプとして有名なのは富山湾の蜃気楼で、4~5月が見ごろであるが、雪融け水の流入で水温が低下し、その上空に陸地で温められた暖気が吹き渡るようなときに現れやすい。北海道のオホーツク沿岸で流氷の季節に見られるものは「幻氷(げんぴょう)」とよばれている。
(3)側方屈折蜃気楼 水平方向に光が異常屈折するもので、垂直な崖(がけ)や壁などが日差しを受けて熱せられた場合や、海岸の浅瀬と深みの水温の異なる場合などが、そのような条件をつくりだす。側方屈折蜃気楼は(1)(2)と複合して現れる場合も少なくないが、日本で見られる(3)の代表としては九州の有明海(ありあけかい)や八代(やつしろ)海に見られる「不知火(しらぬい)」があげられる。古来「狐火(きつねび)」とよばれる現象の一部には、この(3)によって説明可能な現象もあるものと思われる。
蜃気楼という名称は、中国で想像上の動物である「蜃(みずち)」が気を吐いたとき現れる楼閣という意味からつけられたもので、この現象は、このほかに海市(かいし)、喜見城(きけんじょう)、貝櫓(かいやぐら)、なでの渡り、狐の森、狐楯(きつねだて)、山市(さんし)、蓬莱島(ほうらいとう)などとよばれた。俳諧(はいかい)では春の季語。
[根本順吉・青木 孝]
光の異常屈折によって起こる気象光学現象。大気中を進む光の屈折率は,そこにある空気の密度(おもに温度に関係する)で決まるから,地面あるいは海面に近い空気中の温度分布で目に見える景色の見え方が異常になることがある。これには後記のようにいろいろの場合があるのだが,それらを総称して蜃気楼とか蜃気楼的現象とかいっている。
(1)温度の低い海の上へ暖かい空気が流れこんでくると,海面に近い空気は冷やされて,海面付近で上暖下冷の急こう配の温度分布となり,光の異常屈折が起こることがある。遠方の船が逆さになったり,二段に重なって見えたり,遠方の景色もさまざまに変形して見える。富山湾沿岸の魚津などはその名所とされているが,適当な上暖下冷の条件が満たされさえすれば,どこでも見えるものである。外国でも見えた記録はたくさんある。南極の昭和基地でも顕著なものが見られる。
(2)地面が異常に熱せられる場合は上冷下暖の温度分布となって,そのこう配がある度をこすと異常屈折を起こす。舗装道路で遠方の路面がぬれているように見え,そこに自動車の一部が映って見えたりする,いわゆる逃水はこれである。砂漠や乾燥地ではよく起こっている。海面が暖かいときには浮島現象が見えることもある。
(3)水平方向に強い温度勾配がある場合には,遠方の山や船が左右二つ並んで見えることがあるという。道路に駐車している自動車の車体の日が当たっている垂直の外壁に沿って遠方を見ると,光線の異常屈折で大変違った景色になって見える。
実際に起こる場合は,水平にしても垂直にしても,規則正しい平面分布にはならないで,不規則な形になりやすく,また時々刻々に変形する。それで実際に起こる現象はいっそう異常な想像をかきたてるような見え方になる。
執筆者:畠山 久尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…移動するときにゼラチン状の紐を出して,その浮力によって浮き,それが波にゆられて移動する。この紐のことをハマグリが気を吐いたとして〈蛤の蜃気楼〉という。養殖をするときは移動するので囲いをする。…
※「蜃気楼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加