大槻文彦著の日本文法書。1897年(明治30)刊。著者は1889年国語辞書《言海》を著して〈語法指南〉を付載したが,それは本書の原稿からの摘要であった。全国普通の文章語の規範として,主として中古(桓武から後三条天皇までの9~11世紀)の用例にもとづいて法則をたてたもので,本書では文字編,単語編に文章編を加えて説いた。毎条にくわしい注が添えられているだけでなく,別冊として《広日本文典別記》があって,さらに細かに毎節の注釈,敷延,参考,考証,弁解,持論,駁(ばく)論などを集録している。その文法体系は,動詞・形容詞の活用種類,その用法の整理,助詞・助動詞の意味による分類などで,明治初年来おこなわれた国学者流と西洋文典直訳流との折衷というべく,なかには今日から見て無用,不十分の点(たとえば動詞の時,品詞の立て方などについて)はあるが,当時として最もととのったものであり,かつ《別記》によって広く用いられ,その後の教科用文法書に長く影響した。
執筆者:林 大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…《言海》の巻頭には,文法会を起こして同志と討究した成果たる〈語法指南〉が掲げられている。これに改訂を加えたものが《広日本文典》とその《別記》(1897)で,翻訳文法の臭みはあるが,後の国文法研究ことに教科文法には久しく権威をもった。1902年国語調査委員会の主査委員として口語文法の調査を担当した成果は,同委員会の《口語法》(1916)となった。…
…成章以後,鈴木朖(あきら)は〈体の詞〉〈てにをは〉〈形状の詞〉〈作用の詞〉の4種とし,そのほか東条義門(ぎもん),富樫広蔭(とがしひろかげ)らに説があるが,大別としては成章の4区分にまさるものはない。 江戸末期以来,ヨーロッパの諸語の文典の影響をうけ,あるいはオランダ文典にあてはめて九分し,あるいは英文典に基づいて七分するなど,いろいろの説が現れたが,1897年に大槻文彦(おおつきふみひこ)の《広日本文典》の折衷的な〈8品詞説〉が出るに及んで,これが一般に学校文典の標準として行われることになった。すなわち名詞,動詞,形容詞,助動詞,副詞,接続詞,天爾遠波(てにをは。…
※「広日本文典」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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