引き船(読み)ひきふね(その他表記)tug boat

精選版 日本国語大辞典 「引き船」の意味・読み・例文・類語

ひき‐ふね【引船・曳船・引舟】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 船に引綱をつけて人力・馬匹・機械力などで引くこと。また、その引かれる船。江戸時代までは川船が川上へ上る際に陸岸より人が引くのが河川交通の通例であった。
      1. 引船<b>[ 一 ]</b><b>①</b>〈一遍聖絵〉
        引船[ 一 ]〈一遍聖絵〉
      2. [初出の実例]「風吹きて川波たちぬ引船(ひきふね)にわたりもきませ夜のふけぬまに」(出典:万葉集(8C後)一〇・二〇五四)
    2. 引綱で船が他船を曳航すること。また、その船。漕船(こぎぶね)。〔和漢船用集(1766)〕
    3. 神社の祭礼に引き出す山車(だし)の一種で、四輪の車の上に、美しく飾り立てた船形を設けたもの。籠船(かごぶね)。〔和漢船用集(1766)〕
    4. 江戸中期以後の劇場で、二階正面桟敷前面へ張り出した観客席をいう。前船・中船・後(跡)船に分かれていた。
      1. [初出の実例]「桟敷に限らず、土間引船いづれ大入の折からは」(出典:芝居乗合話(1800頃)三)
    5. ひきふねじょろう(引舟女郎)」の略。
      1. [初出の実例]「引ふねの女は、あとにかへし」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)六)
  2. [ 2 ] ( 曳舟 ) 東京都墨田区東向島二丁目・京島一丁目一帯の地域名。曳舟川または曳舟堀と呼ばれた水路が、この地を貫流していたところからの称。駅名などに残っている。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「引き船」の意味・わかりやすい解説

引き船
ひきぶね
tug boat

他の船舶や、推進器をもたない艀(はしけ)、ポンツーン(箱船)、筏(いかだ)、海洋構造物などを曳航(えいこう)するのに用いる船。タグボートともいう。押す方式と引く方式があり、押す方式の場合をとくに押し船という。曳航される船舶や艀などの推進と操縦の役割のために、船体が小さくとも大出力の機関を備えて曳引力を大きくし、フォイト・シュナイダープロペラやコルトノズル装置、Z型推進装置など特殊な推進器を備えて操縦性を増し、引くときの大きな反作用に対しても十分な安全性を保持するように配慮されている。

 引き船は使用水域によって航洋引き船、沿岸引き船、港内引き船、河川引き船などとよばれる。航洋引き船と沿岸引き船は曳引力が大きく航洋性が優れ、機関故障などで自航能力を失った船舶の救難曳航、大型の艀やポンツーン、海洋構造物やプラントなどの洋上曳航に用いられる。港内引き船には、他の船舶などを曳航するものと、一般船舶の離・着岸や誘導などの操船支援にあたる操船用引き船とがある。大型船舶の操船用引き船は数千馬力の機関を備えている。河川や内海の引き船には、艀などを後ろから押して推進する押し船(プッシャーバージ)も使われている。

岩井 聰]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

ビャンビャン麺

小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...

ビャンビャン麺の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android