企業が、従業員の確保・定着、勤労意欲・労働能率の向上、労使関係の安定などの人事・労務管理上の効果を期待して、従業員とその家族を対象に、賃金その他の基本的労働条件以外の主として生活条件の領域で、任意にあるいは法的義務として実施する諸施策のこと。
[浪江 巖・伊藤健市]
福利厚生は法定福利と法定外福利に大別される。日本経済団体連合会(経団連)の福利厚生費調査や厚生労働省の労働費用調査によれば、法定福利は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労働者災害補償保険など各種社会保険料の事業主負担で、その実施が法的に義務づけられている。本来、社会保障制度の領域に属するが、人事・労務管理的機能をもつことから福利厚生として位置づけられている。一方、法定外福利は、企業が任意に実施する施策であり、その内容は多岐にわたり、経団連の調査では次のように分類されている。
(1)住宅 社宅などの給与住宅、持ち家援助、(2)医療・保健 診療所などの医療施設、健康診断など保健衛生、(3)慶弔・共済・保険 団体生命保険など、(4)生活援護 食堂、売店、作業衣支給、通勤バス、保育所、育英資金、ホームヘルプ制度、(5)文化・体育・レクリエーション、(6)その他 法定福利付加給付、財産形成など。
その概念や制度生成は明治期にさかのぼるが、第二次世界大戦前は低賃金、社会保障の未発達、労働組合の抑圧という条件のもとで、経営家族主義的理念や慈恵的・温情的色彩が強く、その内容も生産施設や労働条件と未分化であった。戦後は労働組合が法認され、福利厚生が団体交渉や労働協約の対象となることで慈恵的・温情的性格は薄まったが、従業員の企業帰属意識の醸成などの人事・労務管理機能は本質的に変わっていない。内容面では、生活援護的なものを中心に再編成されたが、その後、費用の節減と実施効果の両面から「合理化」、施策の重点化が絶えず追求されている。
その後の動向は、1980年代の「日本型福祉社会」論の提唱とともに、自助努力を基礎に、公的福祉、企業福祉、労働者自主福祉の三者の役割分担と統合が強調されているところに端的に現れている。さらに1990年代以降、アメリカ流の「カフェテリア・プラン」が導入された。この制度は、これまで画一的であった給付を、従業員各自がそれぞれに許容された範囲で自由に選択できるものにすることで、従業員のニーズに応えようとするものである。しかし、その導入の背後には、法定福利費の高騰からくる人件費の増大回避や、個別交渉によって労働組合の団体交渉への影響力を弱めるといった目的もある。
終身雇用や年功主義の見直しと能力主義・成果主義的な人事・労務管理の主張のなかで一時期福利厚生が大きな転換期を迎えたが、行きすぎた成果主義への反省からか、「運動会」といった集団主義を再構築するような施策が復活している事例もみられる。
[浪江 巖・伊藤健市]
欧米でも両大戦間ごろまではwelfare workとよばれる慈恵的施策の展開がみられたが、その後はクラブ、食堂など直接に生産に関係のない工場内外の諸施設に限定されたpersonnel or employee service(職員または従業員サービス)とよばれる施策、とくにアメリカでは直接の労働給付を伴わない付加的給付fringe benefitsとあわせたemployee benefits program(従業員給付計画)とよばれる施策がみられる。
[浪江 巖・伊藤健市]
『労務研究所編・刊『福利厚生ハンドブック』各年版』▽『厚生労働省大臣官房統計情報編『就労条件総合調査』各年版(労務行政研究所)』
出典 マイナビ2012 -学生向け就職情報サイト-就活用語集(就活大百科 キーワード1000)について 情報
出典 四字熟語を知る辞典四字熟語を知る辞典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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