経営参加(読み)ケイエイサンカ

デジタル大辞泉 「経営参加」の意味・読み・例文・類語

けいえい‐さんか【経営参加】

労働者または労働組合が企業の経営における意思決定に参加すること。

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精選版 日本国語大辞典 「経営参加」の意味・読み・例文・類語

けいえい‐さんか【経営参加】

  1. 〘 名詞 〙 経営民主化の考え方から、労働者が企業経営における意思決定に参画すること。管理参加・分配参加・資本参加の三形態がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「経営参加」の意味・わかりやすい解説

経営参加 (けいえいさんか)

職場,事業所,企業,産業,全国といった各レベルの種々な意思決定や諸活動に対し,労働者またはその代表組織が伝統的に存在していた範域を超えて,より直接的に関与する傾向が生じたことは,1970年以降の先進的資本主義社会労使関係システムにおいて顕著に目立つ新しい変化である。それらのうち産業レベル,全国レベルなどセミ・マクロおよびマクロレベルでの労働者参加は,とくに欧米の産業社会の場合,第2次大戦後は産業別組合や全国組合の組織が相当強大に発達していたこと,およびポリティカル・エコノミーの枠組みが混合経済的ないし福祉国家的な性格をかなりに強めたことから,比較的初期から相当に進行していた。しかし職場,事業所,企業などのミクロレベルでの労働者参加,すなわち,いわゆる経営参加の進行は,とりわけ顕著に目立つ新しい傾向ないし変化である。この経営参加は,社会の違いにより多様な形態で進行しており,また,その意義づけも関係主体により多様である。

たとえば,西ドイツの職場協議制と〈労働の人間化〉の動き,スウェーデンの職場自律集団制と〈労働の質の改革〉の運動,オランダの職場民主制と職務充実化の動き,フランスの職場交渉と〈オートゼスチョン〉の要求,イタリアの職場代表制と〈労働者憲章〉の動き,イギリスの〈職場集団ニーズの最適充足化〉(タビストック人間関係研究所)の動きや〈ワーカーズ・コントロール労働者管理)〉の要求,アメリカの〈組織開発〉や〈職務再設計〉の動き,日本のQCサークルや職場小集団活動の動き,などをあげることができる。このように形態や関係主体の性格や意義づけには社会によって相当な多様性がみられるが,しかし根底においては共通項があるといってよい。労働者の間で雇用安定への諸要求とならんで,〈労働の質〉についての他の一連の諸要求が増大したことが,これらの動きに共通する基礎的な社会的事実である。各社会により,関係主体の中で政府の労働政策,労働組合の要求,労務管理などの相対的比重の濃淡はあるが,それらの内容についてみると,労働環境の人間化,職務の充実化,職場の自律化,所得の安定化等々の動きが共通しており,それらは一括して職場の〈生活空間化〉への動きとでも称しうるであろう。こうした動きには,その根底において歴史的に意義深い労働観の変化の潮流があると多くの人が論じているが,その一例として西欧18ヵ国31の労働組合ナショナル・センターの連合体であるヨーロッパ労連ETUC)が78年に作成した政策文書の一節〈労働の質〉から一文を引用すると次のごとくである。

 〈人間がもっぱら利己心と恐怖と貪欲で行動するとみる古典的な〈経済人〉の観念で,労働の動機を把握しようとするのは今や保守的見地である。革新的見地に立つと,人間はそれら以外の種々な動機要因をもっており,それらは雇用の不安定さに伴う麻痺(まひ)的諸影響や,所得等の不平等の敵対的な諸影響から解放されると強大な力を発揮する,とみる。この場合,最も重要な動機要因は二つであり,その一つは人間が自己の職務においてもちうる創造性と貢献性への関心であり,他の一つはより一般的にいって参加の願望である。それらの動機要因は,社会関係がより大なる程度に,協力と連帯と責任とで特徴づけられるような社会においてより強力であり,また,それらの動機要因は,社会関係におけるそうした諸特徴を再強化する。西欧諸国においてこれらの動機要因はすでに強力であり,また,そうでなければわれわれの社会は機能しえないといえるが,それらを再強化するためには,労働内容と労働諸条件の漸進的な改善を,経済生活の各方面における民主化と組み合わせて推進しなければならない。そうした前進は,さらに,それらの動機要因を再強化するであろう。〉

これの進行についても多様な形態と関係主体による多様な意義づけを指摘しうるが,同時に,それらの根底における共通な時代の潮流の存在が注目される。形態と意義の多様性についてみれば,西ドイツにおける工場委員会の共同決定権の強化(1976),スウェーデンにおける事業所レベルでの協議権と交渉権の強化を意図した共同決定法の制定(1977),オランダでの同様な主旨の工場委員会法の制定(1971),フランス,イタリア,イギリスにおける事業所レベルでの,実態としての協議権と交渉権の強化の動き,アメリカでの伝統的な団体交渉中心主義的な労使関係システムへの労使協議制の導入の動き,日本での1960年代以降の労使協議制の普及などのごとくである。事業所レベルでの労働者参加の進行の形態と意義の多様性ならびに根底における共通項は,企業レベルでの労働者参加の進行についてと共通するところが多い。

これについては,第1に労働者重役制の登場とそれをめぐる動きが注目される。西ドイツでは,1976年共同決定法により,すでに1951年法で労使同数の監査役会制を定めていた石炭,鉄鋼産業以外の他の諸産業の大企業に,労使同数の監査役会制度を適用することを決定した。76年法の労働者重役の権限はいくつかの側面で51年法よりは制約されているが,ともかく,労使同数の監査役会制度が全産業の大企業に普及したのであり,企業レベルの労働者参加の進行の度合では,一大画期をなしたといえる。労働者重役制は,1/3の少数代表制の形態ではあるが,70年代初頭にはスウェーデン,ノルウェーなどスカンジナビア諸国で導入され,オランダでは間接的な形態で,監査役会の役員任免に対する労働者の発言権が強化された。フランスでは政府委員会が,イギリスでは政府の政策文書が70年代の後半に,それぞれ監査役会への労働者重役の少数代表制(1/3)を提案したが,労使の関係者や世論の広範な支持が得られなかった。イタリアやベルギーでも,労働者重役制の構想に対する労使の関係者や世論の支持は少なかった。しかしフランス,イギリス,イタリア,ベルギーなどでは,70年代の後半に,投資計画などについて事前協議などを通じて労働組合が発言力を強化した。

 フランスの国立技芸研究所のJ.D.レイノー教授によれば,西欧には,経営管理的意思決定に対する労働者参加の形態としては,大別して2種があるという。その一つは西ドイツのように,そのための特別なルールと制度を創設し,その制度の基盤に労使の利害の共通性を想定し,そのルールの前提に労使の協力を想定し,労使の代表に同一の地位,同一の権利義務を設定する形態である。その二つは,フランスやイタリアのように〈対抗的協力〉とでも称しうるような方途であり,基本的には団体交渉の論理とルールを援用するが,種々の決定や諸活動への参加の場合は,言葉の適切な意味での協約の締結を目的とするのではなく,問題の検討や協議における〈妥当なプロセス〉(事前協議のプロセス)を通じて結果する〈協力〉を志向する形態である。このいずれがベターかという問いは有意義ではない。行為の選択であるから,社会的状況が相違すれば,形態はおのずから異なる。西ドイツの方式はスカンジナビア諸国やオランダが相当にモデルとするところとなり,フランスやイタリアの方式はイギリスの方式に近い。アメリカや日本でも70年代後半に事業所,企業レベルでの経営管理的意志決定への労働者参加はさらに一段と強まった。アメリカの場合はおもに団体交渉の援用により,日本の場合は労使協議制の強化によった。以上の根底には,労働市場や資本市場での諸変化を含む現代資本主義の構造変動の進行がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「経営参加」の意味・わかりやすい解説

経営参加
けいえいさんか
participation in management

一般的には、労働者が企業の意思決定過程に参加もしくは関与することをいう。また、資本主義的企業において、企業の利潤分配、資本形成などに労働者が参加することを意味するとの見解もある。狭義にとらえて、団体交渉によらない経営への参加に限定するという見解もある。企業別労働組合(企業別組合)が主流である日本において、この狭義の見解は、企業内団体交渉によらない労使協議を経営参加として意味づけるうえで一定の意義を有している。

[守屋貴司]

歴史的展開

経営参加の理念や制度の成り立ちは、資本主義の全般的危機、国際競争の高まりや世界大戦、社会主義国の成立を背景としている。第一次世界大戦において資本主義国は、戦争遂行や戦後の労資対立の激化を緩和するために、労資の協調的関係の構築を目ざし、経営参加の理念を積極的に制度化してきた。それは、ドイツのワイマール共和国下の経営協議会、イギリスのホイットレー委員会による工場委員会の広まりとして現れた。また、第二次世界大戦後は、冷戦構造のなかで労働運動を資本主義制度の枠内に取り込むための有効な手段として、経営参加制度が、旧西ドイツにおける労働者重役制度の広まりなどの形として現れた。その後、1970年代以降、さらにソ連崩壊による冷戦の終結をうけて、世界的な国際競争の激化が進むなか、生産性や品質向上の有効な方策としても経営参加が注目され、導入・展開が広範な形で広まりつつある。

[守屋貴司]

参加方式

経営参加の現実的展開は、時代や国によって多様な展開をみせている。経営参加を分類すると、参加の主体によって、直接参加と代表参加、参加レベルによって、企業レベル、事業所レベル、職場レベル、参加の程度によって、共同決定、協議、諮問、報告説明、また制度の設立根拠によって、法律、労働協約に分けることができる。また、経営参加の制度的形態としては、団体交渉、労使協議制、労働者重役制、職場参加などがある。

(1)団体交渉は、労働組合あるいは労働組合団体の代表者が使用者あるいは使用者団体の代表者と労働条件の改善等を求めて交渉し、協定を行うことである。

(2)労使協議制は、団体交渉の議題にされない事項について労使間で協議、決定を行ったり、情報を提供・説明する機関である。

(3)労働者重役制度は、企業の最高意思決定機関に労働者代表が重役として加わる制度である。

(4)職場参加は、職場レベルにおける作業方法・作業条件などの諸決定に労働者が直接参加することである。

[守屋貴司]

欧米の経営参加

欧米の経営参加において特筆すべき特徴は、職場レベルの経営参加(職場参加)と労使協議制度などをあげることができる。欧米の職場参加の動向としては、北欧諸国において実験的に導入された「半自律的作業組織」、イギリスのタビストック研究所の「職場集団ニーズの再適合化」、アメリカの「組織開発」や「職務充実」などをあげることができる。これらの動きは、1950年代から始まり現在まで続いている。欧米の職場参加の共通点は、経営者側の技術革新に伴う「労働の質」の向上にこたえる点、労働者の「労働意欲の低下」に対応してモチベーション(動機づけ)の向上を図る点の2点をあげることができる。

 欧米の労使協議制の動向として、ヨーロッパでは、ヨーロッパ連合(EU)統合下でのEU指令に基づいて、ヨーロッパ労使協議制が法制化されつつある。ヨーロッパ労使協議制は、一定以上の規模の多国籍企業に情報の提供などの労使協議制度を義務づけるものである。またアメリカでは、1997年、使用者が従業員参加プログラムを法的に認めるチームワーク法が提出されたが、上院本会議を通過することはできなかった。この法案は、会社主導による労使協議会の設立を合法化するものであった。しかし、この法案を大統領のクリントンは、伝統的な団体交渉制度を阻害するものとして拒否権を発動した。

 このような欧米の労使協議会をめぐる動向は、労使協議会の制度化にあたって、労使のどちらが主導権を握るかによってその性格が著しく異なるものになることを示すとともに、生産性・品質の向上のために、経営参加が大きな役割・機能を果たすものであることを示している。

[守屋貴司]

日本の経営参加

日本では、企業別組合を基礎としており、企業別団体交渉および労使協議制度が広範に広がっている。しかし、団体交渉の空洞化が進展し、労使協議制においても、その内実が説明や通知にしかすぎない現状では、実質的な経営参加は実現できていないといえる。また、1990年代において、持株会社制度の導入などの規制緩和や、若者の労働組合離れのなか、「労使協調主義」に基づいて活動している日本労働組合総連合会(連合)に所属する企業別労働組合の存立基盤が揺らぎつつある。

 これに対して、大きな広がりをみせ、かつ1980年代に世界的に注目されたのがQCサークルなどの職場小集団活動を基礎とした職場参加である。日本の職場小集団活動では、労働条件の向上や職場環境の改善などの事項は話し合われず、経営者側の指導による品質や生産性の向上について討議が行われている。このようなQCサークルなどの職場参加は、労務管理の一技法とみる見解もあるが、日本の製造企業の国際競争力の源泉として、欧米企業から注目されてきた。そのため欧米企業では、経営者側の主導によって導入が試みられたが、労働者や労働組合の反発にあい、日本のようには導入されていない。また、日本においてもQCサークルなどの職場参加を支える企業への忠誠心が、終身雇用、年功序列の崩壊に伴って揺らぎつつあるといえる。

[守屋貴司]

『守屋貴司著『現代英国企業と労使関係――合理化と労働組合』(1997・税務経理協会)』『濱口桂一郎著『EU労働法の形成――欧州社会モデルに未来はあるか?』(1998・日本労働研究機構)』

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世界大百科事典(旧版)内の経営参加の言及

【職業】より

…これが現代社会の当面する基本的な課題である。 このような課題にこたえるための対応策として打ち出されているものの一つに,〈経営参加〉の制度化がある。これには利益分配制,労使協議制,労使共同経営制,自主管理制などがあり,いずれも職業活動に従事するものが経営組織における意思決定に参加することを基本とする制度化であり,社会体制の枠組みを越えて進められているものである。…

【労働組合】より

…使用者も争議行為を背景とする団体交渉の局面を縮小しようとするため,労働組合の交渉力がある程度大きくなると,労使協議制の拡充を促進する傾向がある。さらに労働組合が強力になったり,使用者が組合を企業に協力させようとする場合には,労働組合の代表を経営に参与させる経営参加制度がとられ,これは近年拡大する傾向にある。経営参加制度には労働組合の機能とはせずに,非組合員を含む従業員全体を基盤とする制度もある。…

※「経営参加」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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