改訂新版 世界大百科事典 「忠誠審査制度」の意味・わかりやすい解説
忠誠審査制度 (ちゅうせいしんさせいど)
Loyalty Testing Program
特定のアメリカ国民が合衆国に不忠誠でないか,あるいは合衆国に敵対する外国勢力や合衆国憲法を否定する政治勢力に忠誠を誓っていないかを公的機関によって審査する制度。〈移民の国〉アメリカでは,移民の忠誠の対象がしばしば母国と合衆国とに分裂し二重化するため,国家統合を支える国民の忠誠は,他の近代国家に比してつねに不安定であった。忠誠宣誓loyalty oathは,移民や帰化市民,あるいは公務員,教員,法律家,軍人などに合衆国への忠誠を誓わせ,国家統合を強化するために,連邦および州政府が最もふつうに用いてきた審査制度である。独立戦争,南北戦争,第1次世界大戦の前後に,忠誠宣誓が頻繁に行われたことからわかるように,忠誠問題は国家存亡の危機に当たって,最も先鋭な形をとる。最近では,冷戦初期の1947年,トルーマン大統領の行政命令により,連邦政府部内の共産主義者追放を主たる目的として始められた連邦公務員の忠誠審査制度が有名である。この制度は,各省庁の忠誠委員会Loyalty Boardの上に,上訴機関として国家公務員任用委員会の中に忠誠再審委員会Loyalty Review Boardを設けるなど,公務員の市民的自由にも一定の配慮を加えてはいたが,実際の破壊活動のみならず政党帰属や交友関係までも審査の対象とすることにより,忠誠審査が思想調査に転化する危険性を示したといえる。
→非米活動委員会
執筆者:古矢 旬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報