翻訳|loyalty
自分より上位にある人物,集団,理念等に対する尊敬の念を伴った献身と服従の態度。場合によっては,対価をまったく期待せずに,全人格をあげて一方的になされる奉仕と自己犠牲という形をとることがあり,日本の武士道の説く忠誠はこれに近い。個人に対する忠誠は,封建時代における国王や諸侯への服従に典型的にみられ,社会的結合の根幹をなしていた。近代では軍隊をはじめとする官僚制組織内の部下の上級者に対する態度にみられる場合がある。が,社会の平等化が進むに従って,個人間の忠誠はしだいに影をひそめ,社会的紐帯(ちゆうたい)としての意義も減少していく。
近代社会の忠誠の対象としては,むしろ国家のような集団が重要である。国家への忠誠が切実な問題を提起するのは戦時における兵役義務においてであろう。近代国家が国民に課す義務は,通常,国家のサービスへの対価という性格をもつが,兵役義務は究極的には命をささげることを意味するから,個人主義に立脚する国家観においては説明しがたい部分が存在する。国家への忠誠が説かれるにあたり,国家が個人の利益に優位する価値を体現するという主張がなされるのはそのためである。しかし,極限的状況下におかれた当の個人が国家への忠誠を合理的に納得するのは困難であり,第2次大戦末期の日本においては,身近な肉親や郷土への愛情を媒介として国家への忠誠を意味づけるという現象がしばしばみられた。このことは,忠誠が理性をこえた心情的側面にかかわるものであることを示している。
理念に対する忠誠は,たとえば古代ローマのキリスト者の殉教,近代のマルクス主義者の革命運動に見いだされる。この場合の理念は理想社会のビジョンを提示するものであることが多いが,理念を広く解釈して,生活原則や倫理規範も含めれば,それは,個人や集団への忠誠のなかにも作用しているということができる。特定の対象への忠誠が他のものへの忠誠と矛盾したり,積極的な反逆を意味する場合がある。革命運動はその典型的な例である。忠誠がその極限においては,特定の対象への全人格的没入を意味し,そこに一種の排他的な関係が成立することから,忠誠にはつねに他のものへの反逆の契機が潜んでいるといえよう。国家がどの範囲の行為を反逆とみなすかは制度と状況によって異なる。全体主義国家や交戦状態にある国家においては,現政府が忠誠を独占し,反政府的行動が国家そのものへの反逆とみなされる傾向が強い。これに対し,自由主義的国家観においては,〈忠誠なる反対派〉の概念が示すように政府への反対は国家への忠誠と矛盾しない。ことに多元的国家論は,国家を社会内の諸集団のひとつとみることで,忠誠の対象の多元化を承認する。また,信教の自由や結社の自由の保障は,忠誠の対象の選択を個人の手にゆだね,国家がこれに干渉しないことを意味する。良心的兵役拒否の容認は,それが最も徹底した形をとった例であるといえよう。
執筆者:坂本 多加雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般的には自我を超えた客観的な大義名分や理念、または自我の属する上級者、集団、制度などに対する愛着・傾倒の感情・態度をいう。この感情がもたらすものは、忠誠の対象を相対的に長期的に喜んで支持し、そのために行動することであり、ある程度の道徳的・感情的・物質的犠牲を払うことをいとわないという態度である。政治的忠誠とは、政治的共同社会の生活において重要な政治的対象に向けられた忠誠であり、その対象には、公式的制度、政党、利益集団、政治指導者、階級、軍隊、憲法、伝統、象徴や神話、歴史と民族的使命などが含まれる。政治的忠誠は、愛国(郷)心patriotismと法的義務obligationとの中間に位置する。それは愛国心と比べると、感情的にはよりクールで、その基礎においてより合理的で、その対象において包括性の度が低く、義務と比べると、より暖かで、合理性の度が低く、より包括的である。政治的忠誠はある政治システムの政治文化の一部を構成し、その諸対象とその相互連関、強度、影響範囲、パターンは、それぞれの政治システムの作動能力や安定―不安定に重要な影響を及ぼす。
政治的忠誠のパターンは、歴史的に変化してきている。たとえば古典古代のギリシア、ローマにおいては、市民のポリス的共同体への全人格的忠誠は、最高の価値とされた。古代末期から中世にかけては、一方ではカトリック教会とその教義への宗教的忠誠が最高の価値とされ、他方では封建主義の地方的で半人格的な忠誠が存在したが、一般的には前者が後者に優越していた。近代、とくに18世紀以降になると、「国民」ないし「民族」の概念が、もっとも包括的な大衆的政治的忠誠の対象となるが(とくにフランス革命以降の「ナショナリズムの時代」)、他方、近代資本主義の展開に伴って、労働運動等においては社会主義思想の影響もあって「階級への忠誠」が「国民・国家への忠誠」と相克するようになった。第一次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)に伴ういわゆる第二インターナショナルの崩壊は、この相克の劇的事例である。
今日、発展途上国においては、国民的忠誠と国民的自己同定感情(アイデンテイフイケーシヨン)の創出が、最重要政治課題となっているが、それとは対照的に、先進工業諸国家においては、個々人の忠誠の、多元化、部分化、道具化の傾向が強いといわれる。いずれにせよ、洋の東西南北を問わず、急速な社会変化と危機の時代においては、忠誠の多元化が忠誠の相克に進み、忠誠紛争の重要性をクローズアップする。忠誠が信従に、批判が不忠誠に等置される危険な傾向をどう防止するかが、今日のグローバルな重要な政治課題であるゆえんである。
[田口富久治]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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