急性化膿性乳腺炎(読み)きゅうせいかのうせいにゅうせんえん(その他表記)Acute Purulent Mastitis

六訂版 家庭医学大全科 「急性化膿性乳腺炎」の解説

急性化膿性乳腺炎
きゅうせいかのうせいにゅうせんえん
Acute suppurative mastitis
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 乳腺細菌感染して、激しい炎症を起こしたものをいいます。

原因は何か

 ほとんどが、生後1カ月以降の乳児授乳中の母親に発症します。この時期、乳児には乳歯が生え始めます。乳歯により母親の乳首に細かな傷が生じ、そこから乳児の口腔内の細菌が感染するのです。細菌は乳管、あるいは授乳期浮腫(ふしゅ)状になった乳腺組織を通じて広がり、難治性の炎症を起こします。起因菌は多くの場合、黄色ブドウ球菌です。

症状の現れ方

 急性化膿性乳腺炎は、外科的感染症のなかでも最も症状の激しい病気です。患側の乳腺は発赤、腫脹(しゅちょう)、激しい疼痛局所の熱感を訴えます。明らかな腫瘤を形成することはありません。感染が進行すると乳腺内に膿瘍(のうよう)を形成し、38℃以上の高熱を発します。腋窩(えきか)リンパ節が痛みを伴って腫大することがあります。

検査と診断

 臨床症状、血液検査(白血球数の増加、CRP値の上昇)、超音波検査等で診断は可能です。膿瘍を形成していることが確認できれば膿汁(のうじゅう)穿刺吸引(せんしきゅういん)して培養により起因菌を特定し、抗生剤の感受性検査を行います。念のため穿刺物を細胞診断して、乳腺炎とまぎらわしい炎症性乳がんではないことを確認しておきます。

治療の方法

 急性化膿性乳腺炎であると診断されたら、ただちに有効な抗生剤を投与します。授乳は中止し、乳房冷罨法(れいあんぽう)(冷やす)などを施すことにより疼痛などの症状を軽くしますが、本症の治療は授乳期という特殊な環境では困難であることが多いです。治療しているにもかかわらず膿瘍を形成した場合には、切開して排膿を行います。

 歴史的にペニシリン耐性ブドウ球菌が最初に認識されたのは乳腺炎の治療過程であるといわれていることからも、漫然と抗生剤による治療を続けることには問題があります。的確な切開、排膿は非常に効果的です。切開法には乳輪切開や輪状切開法などがありますが、炎症の激しい時点での切開は、のちにケロイドが残ります(図2)。

病気に気づいたらどうする

 急性化膿性乳腺炎は重い感染症であるという認識をもって外科を受診し、適切な診断、治療を受けます。

関連項目

 乳がん

馬場 紀行


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「急性化膿性乳腺炎」の解説

きゅうせいかのうせいにゅうせんえん【急性化膿性乳腺炎 Acute Purulent Mastitis】

[どんな病気か]
 乳房内(にゅうぼうない)に細菌が感染することによっておこる病気です。多くの場合、産褥(さんじょく)(お産のあと)の2~3週間後に発症します。
 うっ滞性乳腺炎(たいせいにゅうせんえん)(「急性うっ滞性乳腺炎」)が誘因(ゆういん)となり、化膿菌が乳管口(にゅうかんこう)から乳管に侵入して乳管炎(にゅうかんえん)をおこし、それが進行すると乳腺におよんで、実質性乳腺炎(じっしつせいにゅうせんえん)になります。乳頭亀裂きれつ)や表皮剥脱(ひょうひはくだつ)、かみ傷などの小さな傷から細菌が侵入し、リンパ液の流れにのって乳房に感染した場合は、間質性乳腺炎(かんしつせいにゅうせんえん)になります。どちらも感染が長期化すると、膿(うみ)がたまり膿瘍(のうよう)ができてきます(図「乳腺の腫瘍の発生部位」)。
 原因菌は、黄色(おうしょく)ブドウ球菌がもっとも多く、ついでレンサ球菌ですが、ときには大腸菌(だいちょうきん)、緑膿菌(りょくのうきん)、肺炎双球菌(はいえんそうきゅうきん)などのこともあります。また近年、原因菌がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)であったとの報告もありますので、とくに注意が必要です。
[症状]
 突然の悪寒(おかん)・震えをともなう、38℃以上の高熱が出ます。乳房は赤くなって、大きく腫(は)れます。乳房の内側は痛みと熱が著しく、押すと痛いしこりを触れます。さらに、わきの下にあるリンパ節が腫れて痛むこともよくあります。
 膿瘍が皮下に近いところにできると、その部分の皮膚は光沢をおびて暗紫色となり、触るとやわらかく波動を感じます(水のはいった袋を触れるような感じ)。また、血液の血球検査をすると、白血球(はっけっきゅう)の増加がみられます。
 このような症状に気づいたら、外科もしくはお産をした産婦人科を、すぐに受診しましょう。
[治療]
 炎症が初期であれば、授乳を中止し、乳汁(にゅうじゅう)うっ滞に対しては搾乳器(さくにゅうき)を使用して搾乳し、局所の安静のために提乳帯(ていにゅうたい)を使用して、乳房を氷のうなどで冷やします。全身的には、抗生物質や消炎剤を内服します。膿瘍ができているときは、膿瘍部の皮膚を切開して排膿(はいのう)します。
[予防]
 授乳の際には、手指をよく洗い、乳頭(にゅうとう)、乳輪(にゅうりん)を清潔に保つことがたいせつです。ほとんどの場合、うっ滞性乳腺炎が誘因になるので、乳汁がたまらないように、マッサージなど手入れをしましょう。乳頭の亀裂、表皮剥離からも感染しますので、早く手当をしておきます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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