家庭医学館 「急性化膿性乳腺炎」の解説
きゅうせいかのうせいにゅうせんえん【急性化膿性乳腺炎 Acute Purulent Mastitis】
乳房内(にゅうぼうない)に細菌が感染することによっておこる病気です。多くの場合、産褥(さんじょく)(お産のあと)の2~3週間後に発症します。
うっ滞性乳腺炎(たいせいにゅうせんえん)(「急性うっ滞性乳腺炎」)が誘因(ゆういん)となり、化膿菌が乳管口(にゅうかんこう)から乳管に侵入して乳管炎(にゅうかんえん)をおこし、それが進行すると乳腺におよんで、実質性乳腺炎(じっしつせいにゅうせんえん)になります。乳頭の亀裂(きれつ)や表皮剥脱(ひょうひはくだつ)、かみ傷などの小さな傷から細菌が侵入し、リンパ液の流れにのって乳房に感染した場合は、間質性乳腺炎(かんしつせいにゅうせんえん)になります。どちらも感染が長期化すると、膿(うみ)がたまり膿瘍(のうよう)ができてきます(図「乳腺の腫瘍の発生部位」)。
原因菌は、黄色(おうしょく)ブドウ球菌がもっとも多く、ついでレンサ球菌ですが、ときには大腸菌(だいちょうきん)、緑膿菌(りょくのうきん)、肺炎双球菌(はいえんそうきゅうきん)などのこともあります。また近年、原因菌がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)であったとの報告もありますので、とくに注意が必要です。
[症状]
突然の悪寒(おかん)・震えをともなう、38℃以上の高熱が出ます。乳房は赤くなって、大きく腫(は)れます。乳房の内側は痛みと熱が著しく、押すと痛いしこりを触れます。さらに、わきの下にあるリンパ節が腫れて痛むこともよくあります。
膿瘍が皮下に近いところにできると、その部分の皮膚は光沢をおびて暗紫色となり、触るとやわらかく波動を感じます(水のはいった袋を触れるような感じ)。また、血液の血球検査をすると、白血球(はっけっきゅう)の増加がみられます。
このような症状に気づいたら、外科もしくはお産をした産婦人科を、すぐに受診しましょう。
[治療]
炎症が初期であれば、授乳を中止し、乳汁(にゅうじゅう)うっ滞に対しては搾乳器(さくにゅうき)を使用して搾乳し、局所の安静のために提乳帯(ていにゅうたい)を使用して、乳房を氷のうなどで冷やします。全身的には、抗生物質や消炎剤を内服します。膿瘍ができているときは、膿瘍部の皮膚を切開して排膿(はいのう)します。
[予防]
授乳の際には、手指をよく洗い、乳頭(にゅうとう)、乳輪(にゅうりん)を清潔に保つことがたいせつです。ほとんどの場合、うっ滞性乳腺炎が誘因になるので、乳汁がたまらないように、マッサージなど手入れをしましょう。乳頭の亀裂、表皮剥離からも感染しますので、早く手当をしておきます。